狭霧
<銀色(ねこねこソフト)>
誰にも譲れない「居場所」
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| 概要 | 説明 | |
| 容姿 | 艶のある黒髪。瑞々しい肌 | それは自然と共に伸び伸びと育った娘だけが持ち得る、健康少女の証だろう。不覚にも頼人は彼女の肌に興奮してしまう。 |
| 性格 | 元気、おっちょこちょい | おっちょこちょいとはどういう意味だろう・・・。 それは事あるごとに皿を割り、頼人に味噌汁をぶっかける狭霧を見て納得すると良い。 |
| 言動 | 神社の掃除、食事、子供達の遊び相手 | 多忙な雑用。しかし狭霧にとっては習慣。その習慣こそが人の営みのあるべき姿。そう一輔はのたまった。 |
| 趣味 | 琴を弾く | 稚拙であるが心を洗われる狭霧の旋律に、寝つきの良い頼人でさえ夢遊病者の如く引き寄せられる。 |
| 存在意義 | 龍神の生贄 | それが皆を救う妙手であり、何より狭霧が望んだことである。 命を落としても存在意義を求めた狭霧の、身勝手だが崇高な生き方。 |
私的分析
頼人が生きる場所。
そこは、国の中心部。
最も豪奢で華やかな反面、人間の汚い部分が最も露骨に顕れる。
謀略や詐術が日常茶飯事の都の中、頼人は人が為す業を嫌と言うほど味わって来た。
今回の都落ちも、そんな人々に生じた闇の部分がもたらしたもの。
強き心を持った頼人には、弱き人々が生み出す心の歪みが解らなかった。
そんな時頼人は、狭霧に出会う・・・。
狭霧が生きる場所。
そこは、都から遥か離れた辺境の里。
何も無い、取るに足りない処。
頼人にとって、そこは自分が居るべき場所ではない。
しかしこの少女の顔は、頼人がかつて経験したことの無い新鮮なものであった・・・。
疑うことを知らず、邪心も無く、平穏に暮らすことが当たり前であるかのように、狭霧の心はどこまでも澄んでいる。
青空の下咲き乱れる、この菜の花のように・・・
何も無くても育つ心。
何も無いから育つ心。
そんなものが世の中にはあることを、頼人は知った。
知らなくても良いこと。
知らない方が良いこと。
追求しないその姿こそ、人間にとって自然で尊いということを、この辺境で強く感じる。
生き方はまるで違うけど、どんな営みの中でも得るものがあった。
だから鷲宮神社に飛ばされたことは、頼人にとって決してマイナスではない。
そこで学んだことは、後に訪れるであろう彼の治世で必ずやプラスになるだろう。
この純朴な少女がそれを教えてくれたのだ・・・
だから狭霧はこのままでいい。
ただ神社の掃除をして、朝食の支度をして、子供達と遊んで。
今まで通り、辛いことなど知らぬまま生きていけばいい。
そう信じて疑わなかった。
あんなことが無ければ・・・。
気付かなかった。
狭霧の笑顔が余りにも屈託無く、本心から幸せそうだったから・・・。
彼女が背負う運命の過酷さに、気付けなかった・・・。
子供達の罪の意識が無い「役立たず」という言葉に、
何故あれほどまでに激昂したのか・・・。
人目に触れることも無く、ただ寂しく佇む琴に、
何故憐憫の情を送ったのか・・・。
「要らない存在」
それは狭霧にとって触れてはならない禁句であり、昔の自分そのものであったのだ。
幼き頃に両親を失い、頼る者を失った。
自分の居場所を失った。
誰にも必要とされず、ただ泣いていたあの頃・・・。
だから居場所が欲しかった。
誰かに必要とされたかった。
いじめられたとしても、構われない方がよっぽど怖い。
自分が何のために存在しているか、解らない。
それは死んでいるも同然だと、幼い頃に理解してしまった。
それがたとえ、誰もが忌避する生贄としての役割でも、
その運命には死しか待っていないとしても、
彼女は自分の存在価値を求めた・・・。
つまり狭霧は、無駄死に確定の立場にあるということ。
近い将来死ななければならないのだ。
しかもあろうことか、それを容認しているのだ・・・。
頼人には全く解らない。
解りたくもない。
死の恐怖すら霞む存在価値。
生きることを放棄してまで得る存在価値。
そんなものがあるなど、認めるわけにはいかない。
頼人が生きてきた時間の中で、そんな価値観は聞いたことすら無かったから・・・。
いや、それよりも・・・。
何の罪も無い余りに無垢なこの少女が、意味もなくただ命を落とすことに耐えれない。
それは頼人の価値観からすれば、理不尽以外の何者でもなかったから・・・。
しかし、それは頼人の思い込み。
狭霧は彼と全く違う思考を巡らせた。
考え方が違う、背負ってきた過去が違う、何より心の強さが違う。
頼人ほど強い人間ではないからこそ、自分だけでは掴み取れないからこそ、弱い人間は必死に、すがってでも自分だけの存在意義を見つけようとする。
命に替えても惜しくない居場所を、狭霧は既に見つけてしまっていた・・・。
ただ、誰かに認めて欲しかった。
誰かに褒めて欲しかった・・・。
全て理解した上で、全て受け入れた上で、自ら進んで生贄となることを望んでいる狭霧。
そんな悟り切った人間を前に、口出しなど誰が出来よう・・・。
もう何を言っても動かない。
狭霧は自分だけの存在価値を見つけたのだから。
誰にも強制されたわけでなく、誰から教えられたわけでなく、自分だけの力で辿り着いたのだから。
だからただ、褒めてやる。
誰も褒めてくれなくても、自分だけは褒めてやる。
自分などでは及ばない、他の誰にも為しえない、彼女だけの生き方。
それが崇高であることを、
本当は狭霧こそが誰よりも強い人間であることを、
決して忘れないだろう・・・。
だから俺は褒めて上げよう、この健気な少女の心を。
そして強く抱きしめよう。
狭霧のぬくもりを忘れないために・・・。
無意識に流れ落ちた涙と共に、
彼女が奏でた琴の旋律を心に刻みながら・・・。
狭霧から教わったことは、生涯忘れられない思い出となるに違いない。
彼女は喜びの上で逝っただろうか?
里の人間達は、少しでも彼女に感謝しただろうか?
狭霧の存在価値を、認めてくれただろうか?
そう吹っ切った頼人。
しかし、そこで衝撃の事実に打ちのめされてしまう。
頼人は知ってしまった・・・。
里の人間達は、狭霧に感謝などしていないこと。
しかも、結託して狭霧が生贄になることを仕組んだ事実を・・・。
狭霧は押し付けられたのだ。
騙されていたのだ。
10年間ずっと・・・。
そんな事実を知れば、いくら狭霧とは言え黙っていられる筈は無い。
他人の幸せの為にと心から願い、進んで犠牲になったのに、それを仇で返される。
完全なる裏切り行為だ。
何より彼女の崇高な決心を土足で踏みにじった。
バカにしている。
狭霧を・・・。
狭霧の心をバカにしている。
しかも彼女の人生を嘲笑する下衆達が、今のうのうと生きている。
そんなこと許される筈が無い。
クズの為に死ぬなど、そんな無意味な人生は無い。
狭霧が死ぬ必要など微塵も無かったのだ。
と、完全なる確信を以って、頼人は彼女を救出した。
しかし・・・、
そこで頼人は、またしても理解不能の打撃を被る。
知っていたと言う・・・。
騙されていたことも、仕組まれていたことも。
狭霧が命を投げ出す行為を無駄死にだとあざ笑った、里人達のことも全て・・・。
それでも尚生贄への道を全うすると言う。
今度こそ、生涯理解不能であった・・・。
狭霧は言った。
誰かが死んで悲しむ人を、二度と出したくないと・・・。
それで深い悲しみに囚われる頼人の気持ちなど、全くお構い無しに・・・。
死を受け入れないのは、心に悔いが残るから。
自分が死んだ時、誰かが悲しんでくれれば、それは幸せ。
狭霧が死ぬと悲しいと、そう頼人は言ってくれたから、狭霧は幸せ。
そして、幸せな上心に悔いが無ければ、人は笑って死んでいける。
狭霧の悔いは頼人に忘れられることで、逆に頼人が覚えてさえいてくれれば悔いは無いのだ。
そして狭霧は知っている。
それを頼人も認めている。
彼女が死ねば、彼はきっと悲しんでくれるだろうこと。
彼は彼女のことを、ずっと覚えていてくれるだろうことを・・・。
だから狭霧に悔いは無い。
だから彼女は死ぬ間際でさえ笑顔だった・・・
きっと生涯解らないだろう、狭霧の心。
しかし否定してはならない、狭霧の生き様。
残酷過ぎる痛みと共に、頼人の思い出に強く強く植え付けられる・・・。
狭霧―――
辺境で出会った少女。
彼女はただ、自分の居場所を探し続けていた・・・。
決して忘れない。
他人の力も、銀糸の力でさえも及ばない、彼女自身が決めた人生を、
他の誰にも掴めない、狭霧だけの生きた証を・・・。
彼女が精一杯生きたことを、俺は知っているのだから・・・。
狭霧の人生は、輝いていた筈なのだから・・・。