「弟の仇を討つまでは死にたくないっ!」




それは私の心の叫び・・・。



私は復讐に燃える軍人で、
同時に裏切り者だった・・・。










敵は倒す。
なるべく多く・・・。

軍に居ながらテロリスト達に機密を漏らし続けている自分が出来ることは、それくらいしかない。
自分が流した情報のせいでテロリスト達が絶えず侵入してくるのなら、せめて自分が最前線に立って少しでも多く片付ける。
それが、私に出来るせめてもの埋め合わせ。

弟の仇が取れたらもうこんなことはやめるから。
ゲンハを殺したら二度とこんなことはしないから。

今はただ、復讐のために・・・。


第一目標はゲンハ。それは憎むべき仇。
第二目標は侵入してくるテロリスト達全て。それは倒すべき敵。

何人殺したのか、もう覚えてない・・・。










また逃がした・・・。

これでもう何度目?
弟の仇・ゲンハを追い詰めるのは幾度となくあったのに、仕留めることが出来ない。
自分の無力さが悔しい・・・。

それでもあの男が生きている限りは「飛刀」に情報を流すしかない。
私はいつものように情報室の端末を操作する・・・。

そんな漏洩行為の繰り返し。
何度目であるか、これもまた覚えていない。

でも、胸の痛みだけは残る。
懺悔の気持ちは蓄積する。
いくら普段からの交流を隔絶させていても、仲間を裏切り続けるのはやっぱり辛いから・・・。

そう思うと自然と涙が流れた・・・。



でも、これは迂闊だったかもしれない。
その光景を同僚である相馬透に見られてしまったから・・・。
私は多少動揺した。




相馬透・・・。
彼は最近入隊して来た新人隊員。
どこかのハッカーチームから引き抜かれたとか聞いている。
彼も情報室を頻繁に利用しているようだけど・・・。


別に興味は無い。
自分は仇討ちのことで精一杯なんだから・・・。



でも透は、ことある毎に私に付き纏い、お節介をする。
今日なども、危険を顧みずにゲンハに囚われた私を助けてくれた。



でも本当は迷惑。
私は私でやるから、あまり構わないで欲しい。
干渉し過ぎると、今の自分を保てなくなりそうだから。
優しくされると、復讐のことを忘れてしまいそうだから。

だけど・・・、


そう言って退けても、透は私への干渉を止めない。
何かと助けてくれて、いつも私のことを気にするそぶりを見せていた。
そんな物好き、相馬透という人・・・。
もしかすると、私も彼のことが少し気になっていたのかもしれない。




ある時、私は誰にも喋ったことのないことを透に話した。
弟やゲンハの名前は出さなかったけど、自分が「仇討ち」の為に生きていることを・・・。


何故口を滑らせてしまったのか分からない。
彼が何度も私の危険を助けてくれたから、その義理からかもしれない。
本当は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
でも、あまり考えない方がいい。

それでも感じるのは、彼には何となく私と同じ雰囲気が漂っているということ。
何かを思い詰めたような雰囲気が・・・。



その理由は彼の口から聞いて理解した。
透もまた復讐の為に入隊し、彼の大切な人を殺した仇を捜していたのだ。
私と同じように・・・。

それが誰だか知らないし、私は手伝うことも出来ないけれど・・・。
上手く行けばいいと、そう願った。
その気持ちは私も良く分かるから・・・。

「私は私の、透は透の仇討ちの為にお互い力を注ぎましょう・・・」

そうして時は過ぎて行った・・・。



そんなある時、スパイ容疑が私にかけられる。
証拠は揃っていないけど、情報室から「飛刀」に向けて軍機密を流す人間が出入りし、それが私では無いかと疑われたのだ。
私は心の中で焦燥を感じた・・・。

それはある意味事実だから。
別にテロリストと内通しているわけではないけど、機密漏洩を行っていることは確かなんだから・・・。

そんな時、透が庇ってくれた。
そして第一小隊のメンバーも同じように・・・。
私はひとまず危機を逃れ、みんなは笑顔を向けている。
私を信頼し切った顔で・・・。

でも、その信頼こそが辛い。
笑顔を向けられれば向けられるほど苦しい。
だからあまり優しくしないで。
私は今でもあなた達を裏切り続けているんだから・・・。








もう限界だった。我慢出来なかった。
私は遂に全てを話す。
弟のこと、ゲンハのこと。そして私のこの苦しみの全てを。
透なら聞いてくれるかも知れないと、そう信じて・・・。



そして、やはり彼は聞いてくれた。
それどころか、私の仇討ちを手伝うと言ってくれた。

そう言って私を見つめる透は優しくて、熱くて・・・。

その手はとても暖かくて・・・


透の私に対する気持ちが伝わって来た。
そして多分、私の気持ちも彼と同じ・・・。

だけど、その気持ちは全てが終わるまで取っておいて、ただ感謝の気持ちだけを・・・。



ありがとう透。
この恩はきっと返すから、
仇討ちが終わってもし生きていたら、今度は私が透を助けるから、


今は私を助けて・・・。







そして、遂にゲンハを倒した。
透の協力のおかげで、私は遂に敵討ちを成し遂げることが出来た。

私の身勝手が招いた代償は余りに大きいけど・・・


少しずつでも償っていけると思う。
これからは誰も裏切らないでいいから。
これからは、透も一緒に居てくれるから・・・。







最後に大好きだった弟の魂を弔い、ようやく私の復讐は終わりを告げた。


次は透の番。
今度は私が透の復讐を手伝ってあげる・・・。






透はそれほど乗り気じゃない。
だけど、私は透の親友を殺したシュミクラムを捜したかった。
それが終わらないと、多分私達は本当の意味で先に進めないから・・・。
これは透の為であり、私の為でもあった。







私は遂に、そのシュミクラムを捜し当てた。
だけど・・・、



私の目の前は暗くなった。
透がハッキングを仕掛けた日、その時出撃したシュミクラム。
それらを分析した結果、導き出されたのは私自身の機体だったから。
彼の友人を殺した張本人とは、私のことだった・・・。





私はそのことを覚えていない。
でも、ゲンハを追っている途中、数え切れない敵と戦って来た・・・。
中には無抵抗の者も居たかもしれないけど、必死だったから多分聞いてない。
死ぬわけには行かないから、ただ死に物狂いで殺していたに違いない。
そんな数え切れない犠牲者の中に、透の親友も居たのだ・・・。



自分が行ってきた悪行に対する仕打ちだとしても、あまりに悲しすぎる。
もう透に合わす顔が無い。
こんなこと、とても言えない。
でも・・・、


言わなければならなかった。
透は私を助けてくれたのだから・・・。
私は透を助けると約束したのだから・・・。



私は死を覚悟した・・・。





でも、せめて最後に確かめたい。
透が私をどう思っているのか、透の口から直接聞きたい・・・。


本当は言われなくても分かる。
それを口にするのは透の復讐が終わってからと、暗黙の了解で決めていただけのこと。
結果は分かりきっている。
それでも聞かずには居られなかった・・・。



予想通り、透は「愛している」と言ってくれた。
そして愛してくれた・・・。


でも、だからこそ悲しかった・・・。




私はつい泣いてしまい、透は狼狽する。
「復讐が終わればいくらでも愛し合える」と彼は言ってくれるけど、涙は止まらなかった。


だって・・・、





その時私は、多分もう生きていない。


このダイブの後、私はあなたに殺されるのだから・・・。







透は私が親友の仇だということに耳を貸さないかもしれない。
私を殺さないため、戦いを避けるかもしれない。
彼は優しいから・・・。
それでも、それに溺れるわけには行かなかった。





だから私は敢えて悪者になる。
彼が戦い易いように、冷徹になる。


復讐に身を焦がした、あの時のように・・・








でも、弱くなってしまった私は、昔のようにはなれなかった。
透に殺されるはずだったのに、生き延びてしまった。






透は私が生きてくれて居ればいいと言うけれど、
そう言って私を抱いた彼の腕は、離したくないほど心地良いけど、


ごめんなさい、透・・・。



やっぱり私は透の側に居るべきじゃない。
私はあまりにも彼を不幸にし過ぎたから・・・。
それを重荷に感じながら一緒に生きていくのは辛いから・・・。



さようなら、透



そんなけじめの付け方しか、私は知らない・・・。








だけど透に捕まってしまった。
そして怒られてしまった。
一人で勝手に決めるなと・・・。


透は言う。
「一緒に居たい」と。

それは私も同じ。
でもあまりに透を傷付けすぎたから、とても償い切れないから居られない。
そう返した。




だけど透は首を横に振って、ただ囁く。
それでも側に居て欲しいと・・・。
逃げるのではなく、側に居ることで償いをして欲しいと・・・。





そんな透の一言。
その言葉が教えてくれたのは、たった一つの当たり前。


好きだから一緒に居たい


そんな、当たり前の欲求だった・・・。





それに気付いた時、私は透の胸に飛び込んでいた・・・。

やっぱり私も透と一緒に居たいから。



私も同じくらい透のことが好きだから・・・。












私の復讐は完了し、透の復讐は果たされぬまま終わる。
消えない無念と後悔を残して・・・。



だけど、その無念や後悔を補える存在があれば、人はまた歩いて行ける。
それを彼は教えてくれた。

だから、




ありがとう、透



私を許してくれて、
そして私を愛してくれて・・・










彼の胸に身体を預けながら、
私はただ、この幸福を噛み締めていた・・・