ターサ
<朱(ねこねこソフト)>
気丈な男、ターサ。でも気弱な男、ターサ
![]() (c)ねこねこソフト |
チュチュの幼馴染。 幼い頃、砂漠で息絶え絶えのチュチュを拾った彼は、彼女の生活を守る為に盗人の真似事をしながら各地を転々としていた・・・。 だが同時に、その旅はチュチュの本当の居場所を見つけるためのものでもある。朱の石を持つ彼女には本来の居場所があり、それを探してあげたいと考えていた・・・。 だけど、いつしかターサはチュチュを手元に置いたままで居たいと考えるようになり、朱の石に関する記憶を封印した。愛するチュチュと一緒に旅が出来るだけで満足感を得るようになっていた・・・。 だけど、その願いも次々と訪れる出会いによって打ち砕かれる。水鏡の女・イブラ、守護者・カダン、そして眷属・アラミス達、ルタに連なる者の存在によって・・・。 そしてチュチュもまたルタの眷属であることが判明した時、ターサは彼女の本当の居場所が何処にあるか考え、そして決断するのだった・・・。 |
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<私的データ>
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| 概要 | 説明 | |
| 容姿 | 幼さが抜け切らない少年な面影と、燃えるような赤い髪のコントラスト。 | その悪気の無さそうな笑み。だけど不敵な両眼。 彼は、まるでアドル・クリスティン。 |
| 性格 | 基本は大雑把。だけどチュチュのことになると神経質。 | 殆どチュチュとしか交流していないのだから、まあ仕方が無いと言えば仕方が無い。 そんなチュチュ一筋なターサの生活パターンは、彼女をからかい後でフォローしなだめること。そして、その時彼女が見せる笑顔を見て独り陶酔することだった。 要するにチュチュにぞっこん、そして甘々・・・。 |
| 言動 | コソ泥、放浪 | 性に合わない上に、相棒のチュチュがいつも足を引っ張るため、コソ泥行為の成功率は結構低い。故に戦利品少なく豪遊が出来ない。 それを補う為に盗人稼業を止める訳には行かず、だけど失敗し易いので益々止めることが出来ず・・・。 更に面が割れるとマズイので一所に留まれない。だから各地を放浪するしかない、と・・・。 そんなドツボなスパイラルに捕らわれているのがターサという男。 |
| 趣味 | 旅、チュチュのお守り | 旅は趣味というより命がけのライフワーク。それはチュチュの為だった。 だけど、彼女に惚れて止まないターサにとっては特に苦痛無し。命の危険はいつでも付き纏うけど、気分はいつでもデート感覚。 そんな心を内に秘めているのかもしれない・・・。 |
| 目標 | チュチュの居場所を見つけること。定住 | チュチュの所有物である朱の石が全ての謎を解く。そう考えるターサは、一応彼女を居るべき場所に戻したいと願って止まなかった。 だが、それも今では何処吹く風・・・。 現在の目標は、どこかに腰を落ち着けること。チュチュと一軒家を持って永住することであった。 |
俺の失敗、俺の罪
ギモコダンという場所の、ある屋敷内。
そこに二人の盗人が侵入していた・・・。
盗人は男と女。
失敗してばかりでいつも男の足を引っ張る女の名はチュチュ。
その女を守り庇う結果、いつも貧乏クジを引く男の名はターサと言った。
そんなターサとチュチュの盗人生活。
なるべく人気の少ない夜を狙いすまし、人の気配漂わぬ場所を極力選んで歩くターサだが、彼の細心の注意も虚しく、今日もまたチュチュは彼の足を引っ張る始末。
夜に侵入したことが何の意味も持たないと言わんばかりに、
衛兵にわざわざ自分達の居場所を知らせんとばかりに、
チュチュの額から迷惑な光が放たれる・・・
普段からのドジに、のろまな機動力。
加えて、何時起こるかも分からない、この傍迷惑な発光現象。
今日もまた、二人は命からがら逃げ帰るのだった。
当然、何の収穫も得られないままに・・・。
このように良く転び、良く物音を立て、その度にターサの計画を台無しにするチュチュ。
どう考えても盗賊に向いていない彼女は、毎回のようにターサに謝り、しょんぼりするのである。
だけど、ターサは・・・。
そんなチュチュを咎めはするけど、決して見捨てることが無い。
そしていつも優しくクールに微笑み、チュチュを許し、最後は彼女の笑顔を取り戻すのである。
彼は今回もまた、昔盗んできた香料を手にちらつかせ、言うのだった。
「まあ、これを売れば結構金になるし。なっ?」
そんな「溜め」と「間」の概念を知る男、ターサ。
彼は中々に演出家、ニクい男。だがその根本は、このドジな幼馴染に限りなく甘いだけの男・・・。
そう。ターサはチュチュと幼馴染。
そして彼は、ずっと昔から一緒だった彼女がとても大切で、だから彼女にはいつでも笑っていて欲しいと願っているだけの男。純朴な、野心無き青年だった。
だからきっと、チュチュと同じように、彼もまた盗賊に向いていない。
だけど彼の願い叶わないからには、やめるわけには行かなかった。
その願いとは、ただ一つ。
「チュチュが幸せであるように―」
それが彼の本心で、その純粋さには曇りが無かった。
只一つだけの心の負い目を除いては・・・。
その心の負い目は、「レイラン」という地名だった。
ターサは今、チュチュと居る。それが彼の昔から変わらない願いである。
しかしもう一つ、忘れられない目的がある。呪詛のように付いて離れない言葉があった。
それが、レイラン。彼のもう一つの目的。
彼等が辿る、もう一つの可能性・・・。
チュチュには教えていない。教えたくなかった。
それを教えれば、俺はチュチュと一緒に居ることが出来なくなってしまうかもしれないから・・・。
だから今は、当面の生活のことだけを考える。金のことだけを考える。
路銀を得る為、香料を売る為に、活気溢れる街・ハファザへとターサは向かった。
今はまだ何も知らないチュチュを連れて・・・。
ハファザへの道程。
目的地は遠いけど、ターサにとって、砂漠は庭も同然。
旅の術も、砂の恐ろしさも身体に染み付いていた。
かと言って過信するわけじゃない。
ちゃんと疲れを知っている。休むべきタイミングやそのポイントだって常に心得ている。
それはドジなチュチュとて同じことである。
二人はずっと昔から、こうして旅を続けて来たのだから。
チュチュを気遣い、その手を取り、道を進む・・・。
ターサは初めてチュチュと出会ってから今まで、それを繰り返して来たのだから。
幼い頃から、ずっと二人で生きてきた。
いつも二人で歩いてきた。
そして、
今でもそれは変わらない・・・
俺が真実をチュチュに伝えない限り。
一緒に居たいと思っている限りは・・・。
夜―。
まだ見ぬハファザという街に、チュチュは思いを馳せる。
宿が綺麗で食事が美味しければいいと、苦労知らずな期待を込める。
ターサはそれを聞いて苦笑し、子供っぽいと揶揄するが、チュチュはそれに反論した。
「夢があると言ってくれ」と。
だけど・・・、
「夢って何だ?」
ターサはチュチュに尋ねるが、いざ聞かれると彼女は明確に答えることが出来ない。
当然、彼自身も思い浮かばなかった・・・。
だが、あまり考えなくて良い。
目の前には、ちゃんとチュチュが居て、笑ってくれているのだから・・・。
だからとりあえずターサは、そんな機転の利かないチュチュをオモチャにする。頬をつかみ、横に伸ばしながら遊ぶ。それを見て和む為に・・・。
当然力は込めすぎない。そして泣く前に離してやるタイミングも忘れない。
この絶妙なやり取りもまた、ターサの優しさであり、小憎らしさであった。
結局のところ、ターサとは・・・。
口では言っても身体は正直。
馬鹿にするだけしておきながらも、チュチュを扱うその手と表情は、いつでも労わりと優しさに溢れている。
目立たないけど、彼はやはり、やる男だった・・・。
ハファザ到着の後―
はしゃぐチュチュに対し、「慌てなくても街は逃げたりしないよ」となだめること。
宿屋の娘に「お二人は夫婦?」とひやかされること。
遊びに来たわけじゃないけれど、チュチュが居るだけで全ての場面が何故か楽しいと思えた。
それは多分、チュチュがいつも笑っていてくれるからだろう・・・。
そんな彼女は今も楽しそうに、以前露店で買ってきた植木に水をやっていた。
今は、ただ平和であった・・・。
だが平和なのは、何もターサ達だけでは無い。
ハファザの街そのものが平和なのである。
その活気と治世の原因は、善良な領主の政治力、そして人徳によるものらしかった。
だけど大した感慨は受けない。
何故ならそれは、ターサ達と関係無いことだから。
彼等は旅から旅を続ける身なのだから・・・。
その心境は、アラミスを守護しながら各地を渡り歩くカダンと同じものだったのかもしれない。
しかし理由は違っていた・・・。
カダン達は還す者。全てを知った上で義務を遂行し、旅をする者。
対してターサはただの人。何も知らず、故にあての無い旅を続けるしか無い者なのだから・・・。
カダンとターサの決定的な違いがここにある。
そして、その違いは後にターサ達を追いつめるほどのものだった。
だけど今は、一時の平和とチュチュの元気な笑顔に身を委ねたいターサであった・・・。
そんな元気の基・チュチュは、その時を境に縫い物を始めた。
露店で売っていたリボンにときめいてしまい、自分も同じようなリボンを作りたいという欲求が芽生えたのだ。
ある意味逃亡者のような生活にも関わらず、彼女は朝も夜も真剣にリボンを縫うのであった・・・。
一度決めたら無理をして止まらないチュチュだけに、本当は止めるべきだと思う。
だけど彼女が真剣だけに、ターサも本心から止めることが出来ない。
「お前に作れるわけないだろ」と、冗談口を叩く程度が限界なのである。
しかもチュチュは、自作のリボンを売って路銀の足しにするという現実的展望まで見せている。
そんなことは気にするなと、いつも言っているのに・・・
だからターサは非難することなど決して出来ず、
「馬鹿だな・・・」と、そう言うことしか出来ず、
最後は応援してしまうのだ。
「頑張れよ」と・・・。
チュチュはトロいくせに、いつでもターサのことを気遣ってくれる女。
穏やかに見える彼女も、彼のことが関わればいつでも真剣だった。
そんな彼女でいる必要は無いと思いつつ、心の中で喜んでいる自分が居る。
俺は、そんなチュチュが好きなのだから・・・。
彼の口から出る、数々の非難の言葉。それは風来坊である自分達の立場を考えた、旅人としての言。
だがたまに漏れる優しい言葉は、チュチュに好意を寄せる、幼馴染のターサとしての言葉。
「頑張れよ」という激励もまた、只のターサとしての本心だった・・・。
ターサの本心―
それは、いつでもチュチュと共に居ることである。
チュチュに苦労はさせるけど、彼は、それがいつまでも続くと信じて疑わなかった。
きっとチュチュだって、同じように思ってくれている筈だから・・・。
その確信がぐらつき始めるのは、この辺りを境にしてのことである。
些細なことで気を揉む彼は、居場所というものについてふと考えるようになっていた・・・。
チュチュが大事に育てている木―
名前は「ブライタ」であると宿屋の娘に教わったのだが・・・。
このブライタの木、成長すれば宿屋の建物よりも大きくなるらしい。
それはつまり、このままずっと持ち歩けないことを示している。ターサとチュチュは旅をする身だから、大荷物を抱えたまま移動することは適わないからだ。
さすがのチュチュも、それを聞いて悲しそうにしていた。
ターサとて同じ気持ちである。
せっかくチュチュが一生懸命育てて来たのに・・・。
ブライタの前に一度買ってやって、枯らせてしまったことがある。だからその植木と同じにならないように、今度こそはと頑張ったのに・・・。
だからターサは一計を案じる。
「領主の屋敷に忍び込まないか?」と・・・。
高価な物をかっぱらい、それを売った金を元手に遠い地へ逃亡を。
そして出来る事なら、そこに定住を。
別に誰かから追われているわけではない彼等からすれば、その思案へ至るのは自然な流れのはずだった。
勿論、ある意味ではルタに追われている。だがレイランという名に隠された深い事情など、この時の二人は知らないし、もし気付くとしてもターサ一人だから。それは彼の胸の内だけに隠しておけばいい。
それよりも大事なのは、彼の気持ちと、チュチュの気持ちのはずだから。
だからターサはチュチュに提案したのだ。お互いの為に・・・。
チュチュもそれを分かっていたのかもしれない。
少し逡巡したものの、最後に晴れ晴れとした笑顔で賛同してくれたのだった・・・。
ずっと昔からそうだった。
ターサはチュチュの笑顔を見るのが楽しみで、それを守り続けたいと思って来ただけ。
例えそれが、ルタに纏わる事情を教えていない欺瞞の上に成り立つ笑顔だとしても、彼女の本心からの笑顔を、ターサは確かに守り続けたはずである。
彼のように出来ず、アラミスの微笑を奪ってしまったカダンとは、やはりどこか違っていた・・・。
それは覚悟が違うからかもしれない。背負うものが違うからかもしれない。
だけど、彼女と出会った時から抱き続けた気持ちの深さは、カダンのそれと多分変わらないはずであった・・・。
そんな気持ちを抱いた、幼い頃のターサ・・・。
彼は、非力で、何の仕事も出来ない役立たずだった。
だから厳しいながらも、罵倒されながらも、自分を養ってくれるおじさんに荷物持ちとして付いて行く。
捨てられないように。死にたくないから・・・。
彼の毎日は、ただ生きていくために従うだけの毎日であった。
あの日、チュチュを拾うまでは・・・。
ある砂漠でおじさんが見つけたもの。
それは、女性に庇われるように倒れていた、虫の息の女の子・・・。
女の人は既に死んでいる。
だけど女の子はまだ生きていた・・・。
僕は、無視して立ち去ろうとするおじさんに反抗する。
それは、今まで従順だった僕が、おじさんに見せた初めての翻意・・・。
何故か、その女の子を見捨てることが出来なかったのだ。
女の子の姿に自分の境遇を重ねたのか、
彼女が持つ赤い石の魔力に捕らわれたのか、
あるいは最初からそうなる運命だったのか、それは分からない。
でも一つだけ、何となく分かることがあった。
僕は多分、彼女に恋をしてしまったのだ・・・。
だから、彼女を拾ったことへの後悔など微塵も無いと確信出来た。
厳しいおじさんの下で二人分の苦労を背負わなければならないとしても、彼女を連れて歩くのは正しいことだと信じれた。
僕は彼女のことが好きなんだから・・・。
それは、イエスマンのターサが初めて人間らしい愛情を示した瞬間。
そして何よりも、チュチュという大切な女の子に出会えた記念すべき日の記憶だった・・・。
そんな愛しいチュチュの姿は、現在もまだ俺の隣にある・・・。
だから俺が望む限り、チュチュが笑顔を見せ続けてくれる限りは、決して離したりしない。
今のこの状況が最善だと、俺自身が信じているから。
チュチュにとってもそれが幸せだと、そう信じたいから・・・。
だけど、望んでいても全て叶うわけではないのが世の中。
きっかけは不意にやって来るもの。心変わりは唐突に起こるもの・・・。
それはチュチュを従え、領主の館に最後の窃盗を仕掛けた俺が、途中で見つかり怪我を負ってしまった時のことだ。
確かにそれはかすり傷で、大事に至るものではない。
けれどチュチュは、俺の傷付いた姿から不吉な予感を抱き、ついにその本心を漏らした・・・。
彼女は言った。
「こんなこと、もうやめよう」
領主の城に忍び込むという、今回の目的のことではない。
他人の家に忍び込んで物を盗むという行為そのものを金輪際止めるということ。つまり盗賊稼業から足を洗うことを意味していた・・・。
一瞬だった、チュチュの本心の吐露。だけどそれは、前々からチュチュが抱いていた本心だと俺には分かる。
チュチュはいつでも自分のことを心配していてくれていた。だから盗賊の如き危ない橋は渡って欲しくないに決まっている。チュチュの気持ちは痛いほど良く分かっていた・・・。
だけど、明確に返答することが俺には出来ない。
一所に留まれない俺達が、盗みを止めてどうやって生きていく?。
チュチュと俺、二人でどうやって生きていくと言うんだ・・・。
結論の出ないままに、俺達はとりあえずハファザを抜け出す。
チュチュに対する後ろめたさを残しつつも、南の地、「アル=イェド」に向かうのであった。
その途中でチュチュが言った。
「ごめんね、迷惑ばかりかけて・・・」
唐突の謝罪。たまに見せる弱気の一環。チュチュは悲しそうな顔で謝罪したのだ。
「いつも失敗したり、わがまま言ったり・・・」
そんなことは聞きたくない。そして謝ってなど欲しくない。
だけど、問い詰めると余計にチュチュは悪い方に考えるだろう。
だから俺は聞き方を変えて言った。
「辛いか?」と・・・。
多分、辛くなくはないはずだ。そして、
「俺と居るの、嫌か?」
嫌ではないと思う。自惚れでは無く、確信があった。
そうでなければ、とっくの昔にこの関係は終わっていたはずだから・・・。
「ううん」
案の定、チュチュはそう答えた。
予想通りであり、少し卑怯な問い掛けでもあるけど、彼女の後ろめたさを強引にやり込めるには、そう聞くしか無かった。何より、チュチュの悲しんだ顔など見たくなかったのだ・・・。
そう。だから別に気に病む必要など無い。チュチュも、そして俺も。
お互いが嫌じゃなければ、多少の辛さなど乗り越えられるはずだから・・・。
だが、お互いの納得だけで本当に事は問題なく進むものだろうか?
世の中はそんなに甘いものか?
未だ葛藤する俺に追い込みをかけるように、チュチュがもう一つの問題を切り出す。
「この子、ずっと一緒に居られないんだよね・・・」
チュチュにプレゼントした、ブライタの植木のことを指していた。
宿屋の娘の話によれば、とてつもない大木に成長するということ。だから一緒には連れて行けない。
それはある意味仕方ないことなのだが・・・。
俺は、彼女のこの一言に焦燥感を覚える。
このブライタの木は、ずっと旅のお供として持って行きたいとチュチュが願っていたもの。
だけど、植木の行く末を考えた時、それが不可能だと分かる。
それは、ターサとチュチュにも言えることでは無いか?
いくら願っても、駄目なものがあり、望むだけでは一緒に居られないこともあるのではないか?、と。
それに結論を下すのは、そら恐ろしかった・・・。
だけど当面はこの植木。
「水の沢山あるところに植えたい」というチュチュの希望が、現状では最も自然だろう。
大量に水を摂取できる場所ならば、いくら大きく成長したとしても枯れることはないから・・・。
何事にも、最も適した場所がある。居るべきところに居るのが一番いい。
それは植木でも人間でも変わらないはず・・・。
じゃあ、チュチュの居るべきところとは?
俺は考えいた・・・。
次の日、旅の道程で、まるで植木を待ち構えていたように、そこが植木の居場所だと言いたげに、砂漠で大きな泉を見つける。
俺の心は、揺れ動いていた・・・。
アル=イェドに到着しても、チュチュは夜リボンを編んだりしている。
あぶなっかしい手つきで、夜更かしまでして・・・。
本当はそんなことしなくてもいい。旅の資金繰りなどチュチュが考える必要など無い。
そう思っているのだが、止めることもまた出来ない。これはチュチュ自身の為ではなく、ターサのことも考えてのことだから・・・。
だからせめて、上手く作れればいい。
せっかく費やした時間なのだから、そのリボン作りが成功を収めてくれればいいと思う。
当然口には出せないから、せめて心の中だけでも・・・。
俺は、ただ頑張れと祈った・・・。
その折、チュチュは不意にハファザの祭りに行きたいとせがんだ。
本来なら、盛り上がりに富んだ行事は望むところで、それは沈んだ心をも癒してくれるだろう。
だけど、それは無理な相談だ。二人は一度、ハファザから逃げてきた身なのだから。
チュチュは案の定しょんぼりしていた・・・。
その顔を見て思う。一体俺は、何度こいつのお願いを蹴散らしてきたのか、と。
たとえ他愛無いことでも、こいつにとっては大事なことなのに・・・。
リボンを編む手からも落胆が窺える。
だけどチュチュは辛いことを表には出さないやつだから、せめて・・・。
「明日も街に行かないか?」
俺は精々それくらいしか言えない。
でも、せめてその悲しい顔だけでも取り除きたいから、今出来る精一杯をするしかない。
それを感じ取ってくれたのか、チュチュは「うん、行きたい〜」とようやく笑顔を戻すのだった・・・。
結局のところ、俺がしてやれることなどささやかなものだ。
だけど今はこれで勘弁して欲しい。本当は俺だってチュチュと表通りを歩きたかった・・・。
その気持ちを少しでも伝えたいから、俺は普段隠している言葉をせめて囁く。
「俺もお前と行きたいしな・・・」
小さく、ボツリと、だけど心からの本心を・・・。
根無し草の盗賊という現状や、二人の居場所に対する不安は未だ消えず。
けれど、今はチュチュの笑顔に甘んじたい。そして、俺の本心を優先したい。
何度考えたって、俺はチュチュに何処にも行って欲しくないし、彼女だって幸せだと思ってくれているのだ。
だから深く考える必要は無い。今の現状こそが最良だと、何よりもチュチュの嬉しそうな顔が証明しているのだから・・・。
俺の迷いが一つだけ解消した瞬間だった。
だけど・・・。
それが一瞬で覆される時。
吹っ切れたばかりのターサの決心を根こそぎ引っこ抜くように、その時は訪れる。
彼は、一人の女に出会ってしまった・・・。
その女は自分のことを知らないし、ターサもその女のことは知らない。
しかし、彼女が身に付ける、赤い石だけは知っていた・・・。
それは昔、ターサがチュチュから譲り受けたものと全く同じもの。
自分とチュチュとを巡り合わせてくれた幸運の石であり・・・。
自分の手元から彼女を奪ってしまうかもしれない、不吉な石でもあった。
幼い日―。
チュチュを拾ってからしばらく経って、彼女から一つの赤い石を見せられた。
僕は言われた、チュチュに。
「連れて行ってくれないの?」と・・・。
僕には何のことか分からない。
しかし彼女は言われたらしい、誰かに。
「迎えが来たら石を見せろ」と・・・。
その赤い石がどんなものか、僕は知らない。チュチュも知らない。
だけど、それを知っている人が何処かに居るであろうことは分かる。その人に見せれば、チュチュが何処かに連れて行かれる可能性があるということだけは、幼いなりにも直感出来た。
つまり、彼女には元々行くべき場所があり、決められた人生があるのだと・・・。
赤い石―。
それは、チュチュのことを気に入ってしまったターサの幼心に、離れ離れになるかもしれないという焦燥を植えつけた不吉な存在だった・・・。
その焦燥から始まって今日に至り、俺達は現在も旅をしている。
今もチュチュは相変わらずリボン編みに熱心で、それを高く売って生活費に充てようと微笑みながら言う。
相も変わらず、チュチュは俺のことを考えてくれていた。
だけど俺は、そんな彼女に何かしてやれただろうか・・・?
何も知らないチュチュを今日までずっと引き回し、苦労を強いてきた。
そして今、良くないことを予兆するかのように、赤い石を持った女に出くわした・・・。
悪い方向ばかりに向かう状況と、止まらないざわめき。
これを打破し、起死回生を図るには・・・。
「ハファザに行かないか?」
俺は、自分で取り下げたはずの提案を再び蒸し返した・・・。
その目的は、領主の屋敷に忍び込み、金目のものを盗むこと。
だが本当の真意は、それを元に放浪生活に終止符を打つことだ。
チュチュは当たり前のように俺を咎めるけど・・・。
今回ばかりは止めるわけにはいかなかった。
確かに危険なのは分かる。もう二度としないと誓った。
しかし、この盗みは、後の二人の未来を切り開く為にどうしても必要なこと。盗賊で放浪者という後ろ暗い立場を清算し、赤い石に関する出来事を封印する為の、唯一の手段だった。
だから俺はチュチュを説得し、最後の盗みに臨む。
今度こそ、彼女と二人で見知らぬ遠い地へ。本当の安住を求める為に・・・。
そんな、俺の決心。
ようやく分かってくれたチュチュだけど、またもそこで異変が起こる。
前と同じように、彼女の額が光り出したのだ・・・。
しかもそこに映ったのは、これから忍び込む予定の領主の屋敷。
そのビジュアルの中で、その屋敷は燃えていた・・・。
今まで彼女の光が映し出したのは、全て知らない地。でも今回は二人とも既知の場所。
その違いに不安が過ぎる・・・。
だけど、今更止めるわけにはいかない。
俺の為に、俺を心配するチュチュの為に。
「いざとなったら守ってやる」と勇気付けながら・・・。
それは現実を無視したいが故に、訪れる危険の可能性を無理矢理押し殺そうとした、俺の精一杯の強がりだったのかもしれないけれど・・・。
一度決めたからには、これできっちり終わらせる。
逃げたところで何も変わりはしないから・・・。
そうして俺は、チュチュと共に領主の屋敷に侵入し、最後の盗みを敢行した。
その行為は二人の運命を更に追い込んでいく行為であり、俺の決心は逃げ道を狭めるだけの早まった決心でしかないことに、とうとう気付けないままに・・・。
全てが終わってから、俺はその判断が裏目であったことを痛感するのだ・・・。
領主の館で、俺達は見たことも無い宝の山を見つける。
それは二人の将来を保証する物。だから途中で見つかりつつも、何とか高級そうな香木を一つ掠め取った。
それを売れば相当な大金を得られるだろう・・・。
しかし、逃げる途中で出会った二人組は、俺達の明るい将来すら壊す者だった・・・。
俺達の前に立ち塞がる、男と女。
鎧を着た男と、彼に守られるように後ろに控える少女。
彼らは、これから起こる俺達の運命に否が応でも関わってくる。
この時は特に何も無かったが、俺は全てを見透かすような男の目が忘れられない。
もしかして、この男はチュチュと俺を引き離す為に訪れた疫病神なのではないのか、と・・・。
チュチュの光が示した通りに燃え盛る屋敷を後にしつつ、俺は益々焦燥感に駆られるのだった。
そしてチュチュも馬鹿ではない。
屋敷内に転がる死体、怪しい二人連れ、そして予告通り炎上した屋敷。
金目の物を手に入れたからとて、素直に喜べるものではなく、全て彼女が発する光と関係あるのではと気を揉み始めた。
「私のせいじゃ?何か良くないことがあるんじゃ?」
実は俺もそう思う。でもそうは思いたくないから、不安を振り払い彼女を懸命になだめるしかないのだ。
「俺が側に居るから。たとえ何があっても、ずっと側に居るから」と・・・。
そう。何はともあれ屋敷から香木を盗み出せた。それを売って遠いところへ行けば問題ないはずだ。
要は、俺とチュチュが二人で静かに暮らせればいいのだから・・・。
その為には、まず盗んだ香木を売る必要がある。
チュチュは、その場所としてアル=イェドを選択した・・・。
そこは、チュチュが露店のオヤジとリボンを売る約束をした場所。だけど赤い石を持った女と出会った不吉な場所でもある。
本来なら避けたいのだが・・・。
まさか盗んだ場所でその盗品を売るわけには行かない。
それに、路銀の足しにと頑張ってリボンを作るチュチュの手前もある。
何よりもチュチュの意志を尊重したい俺は、悩んだ挙句アル=イェドへ向かうのだった・・・。
宿に付くや否や、チュチュは早速リボン作りを再開する。
怪しい手つきだったけど、それは遂に完成し、素人目から見ても良いと思える出来だ。
「本当に売れるかな?」と、今更心配するチュチュだけど、
「売れるって、いい出来だ」と俺は太鼓判を押して止まない・・・。
そう、売れないはずが無い。本当に良く出来ているし、何よりチュチュがあれだけ一生懸命頑張ったのだから。
これで売れないわけが無い・・・。
予想通り、リボンは売れた。
そして、盗んだ香木も正銀貨2枚という法外な値で売れた。
これで後は海でも渡って遠くに移り住めば、全てが完了するはず。
事は順風満帆に進んでいるはずだった・・・。
だけど安心した矢先、またも嫌な事態に遭遇する。
昼間からチュチュの額が光り出したのだ。
しかもその現場を、例の赤い石を持った女に見られてしまったのだ・・・。
考えうる最悪の展開が、俺の安堵を一瞬で打ち砕く。
チュチュを先に帰した後、水鏡の者と名乗るその女は問うてきた。
「あなたは守護者なのですか?」と・・・。
その意味は分からない。
だけど確信めいた女の口調に圧倒された俺は、その場を逃げ出す以外になかった・・・。
宿屋に戻った後、新たなリボンを作ると意気込むチュチュと対照的に、俺は落胆を隠せなかった。
確かに水鏡の女との一件で、少なくともチュチュの手がかりは掴めた。
けれど、それは同時にチュチュとの別れを意味するかもしれないのだから・・・。
逃げるべきか?でもそれで本当にいいのか?
葛藤し続け俺だけど・・・。
ここまで来てチュチュと引き離されるなんてあんまりだろう。
俺はチュチュと一緒に居たいだけなんだ・・・。
そんな俺の苦悶を和らげるかのように、チュチュは「海の向こうへ行きたい」と言ってくれた。
水鏡の女のことも、赤い石のことも教えていない欺瞞の状態。だけどそう言って微笑む彼女は、その欺瞞すら打ち消すほどに魅力的だった・・・。
だからそれで良いかもしれない。いつだってそうだったんだから。
俺は、チュチュのそんな笑顔を守り、それをこれからも見たいと思いながら今まで生きてのだから・・・。
隠した不安をチュチュに励まされ、またも俺は元気を取り戻すことが出来た。
だけど、そんな気負いも虚しく、水鏡の女が最後の追い込みをかける。
彼女は言った。
チュチュは眷属で、行くべき場所が決まっている。
そして無関係のターサはチュチュと居るべきでは無いと・・・。
最後まで白を切る俺。
だがそんな俺をあざ笑うかのように、女は決定的な証拠を突きつける。
その額から、まばゆいばかりの光を発しながら・・・。
それは確かに、チュチュと同じ能力だった・・・
つまり、チュチュは水鏡の女と同じく眷属という存在であり、既に決まった運命を背負う者なのだ。
それは昔から決まっていたことで、今までターサがそれを妨害していただけに過ぎないのだ。
もはや抗弁出来ない。チュチュには居るべき場所があると認めるしかない。
俺は遂に観念した・・・。
だけどそれ以上に、水鏡の女が口にした単語。
その言葉にこそ、俺は運命的なものを感じさずにはいられなかった。
「レイランへ行きなさい・・・」
レイラン―。
それは遠い昔に聞いた地名。だけど忘れることが出来ない地名。
昔の記憶が、再びぶり返される・・・。
チュチュと一緒に、おじさんに付いて行くだけだった過去の日々。
その中に、チュチュを拾った場所で、おじさんと知らない男が話していることがあった。
男は確かに「レイランから来た者」と口にし、チュチュを探しているとも言った。
つまり、レイランと言う土地がチュチュの帰るべき場所なのだ。
それだけは、子供の僕でも悟れたのだ・・・。
だけど、それを知っているおじさんは男に殺され、その男もまた不幸な事故に遭い、
レイランのことを知っているのは、僕とチュチュの二人だけ・・・。
多分今ではチュチュも忘れているだろうから、結局知っているのは俺一人・・・。
そのレイランが、今、現実的なビジョンを以って俺の前に示されたのである。
これは、本来なら喜ぶべきことのはずである。
昔からずっと探していた場所が見つかったのだから・・・。
それでも、俺は思わずには居られなかった。
「何で、今ごろになって・・・」
その言葉に隠された意味を、赤の他人である水鏡の女は知る術も無い。
その苦悩に満ちた表情を、側で眠っているチュチュが知る由も無い。
だから、俺は独りで決心するしかなかった。
これから自分達が歩むべき道を・・・。
水鏡の女と別れた後、俺は早々にアル=イェドを出発するようチュチュに促す。
いぶがしがる彼女だが、もはや後には退けなかった・・・。
目的地は、海を渡る為の中継地点である「ギモコダン」。
だけど、それは表向きの行き先。
本当の行く先は・・・。
休憩地点の泉で、はしゃぎながらこれからのことを夢一杯に語るチュチュ。
俺は、調子良く話に乗ってみせる。
だけど今、俺は嘘を付いている。
昔と同じように・・・。
幼い頃―。
おじさんが死んで、誰にも頼ることが出来なくなった。
子供だからと言って、情けを掛けてくれる世の中はそこに無かった。
だから、二人で考えて決めなければならない。二人で生きなければならない。
僕は、心配するチュチュに向かって言ったはずだ。
「俺が一緒に居るから」と・・・。
自分の呼び方を変えて、虚勢を張って・・・。
その誓いは嘘じゃない。いつもチュチュのことを考えて動いていた自負がある。
だけど、赤い石に関しても果たしてそう言い切れるだろうか・・・?
チュチュが身に付けてた赤い石。
彼女を探す人物を見つける手がかりとして必要だと、俺はそう言って石を借り受けたはず。
そして、その石を元に、行く先々で聞き込みを続けていたはずである。
確かにそれは、チュチュの為を思っての行動に見えただろう・・・。
だが本心はどうか。
真剣にチュチュの手がかりを探す気など、実は無かったのではないのか?
どうせ見つからないと、高を括っていただけでは無いのか・・・?
その証拠に、赤い石のことを知る人間が居ると聞いた時、。
俺はその人間に遭うことをせず、走って逃げたんだから・・・。
逃げたのは、怖いから。
怖いのは、手がかりを掴んでチュチュが何処かに連れて行かれること。
結局、俺は自分の欲望を優先しただけの嘘吐きでしか無かった・・・。
そうして嘘を吐き続け、現在に至り・・・。
今再び、特大の嘘を付いたく俺。
ずっと一緒に居たいと言うチュチュに対し、「これからもずっと側に居てくれるか」などと、行動とは裏腹な台詞を言ってのけてしまった。
後が辛くなるだけだ分かっているのに・・・。
だけど、その気持ちに偽りは無い。偽り無いからこそ、余計に決心が鈍るのだ。
だけど、その鈍りもこれで終わり。
本当にチュチュのことを思うなら・・・。
俺は、ようやく全てを終わらせることを決意した・・・。
その為に、まず朱の石を返す。
長年借り続けた石だけど、本来の持ち主であるチュチュに返すのが最も良いと思えた。
その石がチュチュを守ってくれるように。
俺はもうお前を守ることが出来ないから・・・。
そして、ブライタの木を泉のほとりに埋める。
ずっと一緒に持って行くと約束した植木だけど、やはり水がある場所に植えるべきだと思った。
「海の向こうじゃ育たないかもしれない」と、建前ではそう言って。
「レイランに行くには、その木は邪魔になるから」と、心の中で本心を呟いて・・・。
そんな卑怯な俺を信じて疑わないチュチュ。
俺のの罪は積み重なるばかりだけど・・・。
それでも俺は、植えられた木に向かって独り祈った・・・。
ずっと一緒だと思っていたブライタの木。
今日でお別れだけど、せめて元気に育って欲しい。
朱の石がチュチュの手に還った今、二人の思い出を残すものは、お前しか居ないのだから。
それは、俺とチュチュが一緒に居たという、唯一の証なのだから・・・。
何処までも成長して欲しい。
俺とチュチュとで過ごした日々が無駄じゃないと言えるように。
確かに楽しい日々だったと、胸を張れるように・・・。
こうして大切な物との別れは終わった。
あとは大切な人との別れだけであるが・・・。
何も知らないチュチュだから、愛情を込めて言ってくる。
「またここに来ようね」と・・・。
だから俺も敢えて言いたい。
「ああ、また来よう」と・・・。
現実を見れば、それは不可能なのかもしれない。
だけど俺は・・・、
せめて、心だけでもそうありたかったんだ・・・
そんな虚しい約束を交わした後、チュチュと出来る最後の旅に俺は出掛ける。
ギモコダンでは無い場所を目指して・・・。
そして、遂に最後の目的地・レイランに到着した。
それは、今まで隠して来たターサの計画が一気に明るみに出る瞬間。
彼の本当の気持ちすらも飲み込む勢いで・・・。
うろたえるチュチュに、俺は告白した。
チュチュが眷属であること、彼女の居場所はレイランだということ、そして朱の石のこと。
今まで隠し続けてきたこと全ての想いを乗せながら・・・。
「ここがお前の帰るべきところなんだ」と・・・。
ただ、俺の我侭で遅れただけのこと。
約束は、もう果たせない。
ずっと一緒に居るという、あの絶対だった約束はやはり俺には・・・。
幼い頃に砂漠で出会ってから、ずっと二人だけで生きてきた。
決して向いているとは言えない盗賊稼業に手を染めて、逃げるように放浪の旅を続けて来た・・・。
それは生きる為だけど、何よりチュチュを守る為。
俺の旅は、チュチュを守る為の旅だった・・・。
その旅は決して楽じゃなかったけど、特に苦痛は無かった。
俺はチュチュが好きでたまらなかったのだから・・・。
そしてチュチュも、恐らくは自分に好意を持ってくれている。そう信じ続けて来た。
今の状況が最善だと思い込んで来た。
チュチュは、いつだって笑顔で居たのだから・・・。
だけど、笑顔の影に隠れたチュチュの本心には至らない。
俺を心配するチュチュの不安を、本当の意味で汲み取ることは出来なかった。
だから、彼女の言葉を軽んじる。
何があっても一緒に居たいとチュチュは言ったはずなのに、結局最後は独り善がりの洞察を信じてしまったのだ。
俺はチュチュの為を思うあまり、彼女の意志を尊重することを怠ったのだ・・・。
本当のチュチュの居場所は何処か、本当は言わなくても分かっている。
自問自答しても、チュチュの意志を確かめても、戻ってくるのは唯一つしかないはずだ。
「二人はどんなことがあっても一緒に生きる」
定まっていたからじゃなくて、一緒に考えて決めて来たきた二人だから、必然的にそうなるはずなのだ・・・。
だけど俺は、そんな貴重な今までを、最後の最後で台無しにしてしまった。
俺はチュチュの強さを受け止めることが出来なかった。自分の弱さに負けた。
結局俺は、単に逃げただけだったんだ・・・。
こうして最後に逃げてしまったターサ。
チュチュを手放し、しかもレイランの住人・カダンによって記憶まで消されてしまって・・・。
彼は、そんな悲しい運命を背負った男・・・。
今まで積み重ねた時間の価値を軽んじたから。
自分の強さを信じることが出来なかったから。
そして何より、チュチュの想いを分かってやれなかったから・・・。
そんな懺悔や後悔と共に、今、懐かしい思い出は消える
全て、彼の弱さが招いた結果だった・・・。
そんな、ターサの苦悩とチュチュの一心な愛情が報われなかった結末。
これから始まる日々は、何も無い白紙のものだろう。
それでも・・・、
もし、少しでも希望があるとするのなら・・・、
それは、あの泉に二人で植えたブライタの木。
そして、ターサがチュチュと共に歩いて来た距離の長さに違いない・・・。
確かに二人の身体は離されたけど、ブライタの木は未だ同じ場所にある。
チュチュと一緒に居たことを示す最後の証として、今でも泉のほとりに・・・。
そして、確かにターサの記憶は消されたけど、旅をしてきた距離を逞しい足が覚えている。
いつも側に誰かが居た感覚が、身体に染み付いている。
もしそれをターサが肌で感じ取り、空虚を埋めようと無意識に歩き始めたのなら・・・。
二人は再び巡り合えるかもしれない・・・
歩いた距離は時間の長さ。
過ごした日々は絆の深さ。
ターサは他の誰よりも長くチュチュと歩き、
他の誰よりも深くチュチュと繋がっていたはずだから。
ターサとチュチュは、今までずっと一緒に生きてきたのだから・・・。
記憶を失ったターサは、ただ身体の命ずるままに歩いていた。
偶然を必然に変える為に・・・、
チュチュを守りながら歩いてきたその二本の足で・・・、
あのブライタの木に向かって・・・。