私は、いつ生まれたの・・・?
あまり考える必要も無い。
遥か昔この土地に神が降臨し、それをなだめる一族がいて、それは人間達から畏怖される存在だった。
私はその一族の一人で、ずっとこの土地を守ってきた。
それが全てであって、生まれた事実などに意味があるとは思えない・・・。
でも、
いつからこんなことをやり始めたの・・・?
兄を殺して、自分が一族の宿命を背負った時から。
そこに住む人々を同化体と称して神様に捧げる為に、彼らに死を強いて来た。私が殺してきた。
この土地を守る為に・・・。
じゃあ、いつまでこんなことを続けるの・・・?

多分、永久に終わらない。
この街は、常に能力者の力を養分として生きている。
その養分を供給できないということは、街が死ぬこと。それは街に住む人達も全員死ぬということ。
それだけは避けなければならないから・・・。
だから人殺しだと解っていても、その使命を投げ出すことは出来ない。
街を守ることが、皆の命を守ることに繋がっているのだから・・・。
こうやって私は、絶えず人々を生贄として殺める日々を繰り返す。
涙一つ流さずに・・・。
私が最後に泣いたのは、いつ頃だったろう・・・?
遥か昔、私をとても慕ってくれた彼女を、この手で殺した時?
実の兄を殺した時?

解らない。
それほどまでに、数え切れない人を殺して来たから。
その都度涙を流していてはとてもやっていけないから・・・。
兄さんを殺してから時を経たずに、私はそう言った兄さんの言葉を悟った。
死んだ方がよっぽどましだということを・・・。
でも死ねないから、心が壊れない為に感情を閉じ込めるしかない。
そんな私は、多分狂っているに違いない。
けど、普通の神経でこんな現実が受け入れられるの?
いつも無表情で、何も自分は悪いことなどしていないと思い込む。
そうして何食わぬ顔で能力者を狩り、生贄として殺す。
そんなこと、狂っていなければ耐え切れないもの・・・。
そうして人は私から離れていくけど・・・。
でもそれは好都合。
元々、人々から畏怖され遠ざけられるのが私の一族の宿命だから。
それに、誰も私の苦しみなんて解りはしないもの・・・。
それなのに、何故私に付きまとうの?
何故、解った風な口を聞くの?
私の10分の1も生きてないくせに。
私がどれだけ辛い思いをしているか知らないくせに・・・。
罪悪感?
そんなもの感じるはずがない。
感じたら心が壊れるもの・・・。
悲しみ?
そんなもの、数え切れないほど経験した。
だって私は1000年以上も同じことを繰り返してるもの。
数十年しか生きていないあなた達には決して理解できるはずがない。
それでも私を救うだなんて、そんな夢みたいな話はやめて・・・。
見え透いた優しさの押し付けはやめて。
そんなもの、あるわけない。
それが解らないから、今まで独りで苦しんで、今も独りで苦しんでいるんじゃない。
それでも・・・。
彼らの存在は私を引き付け、彼らの言葉は私の耳に残る。
秋人という人。
私がまだ子供だと言い、歴史には嘘と真があると言った。
優華さんという人。
圧し潰されそうな心を全て包むかのようにただ微笑み、全てを受け入れていた人。
私を助けることが出来ると言った彼女の言葉は忘れられない・・・。

そして優華が自分の全てを託したという、真さん・・・。
突っぱねてもしつこく着いて来て、
迷惑だと言ってもめげずに付きまといながら・・・、
私に楽しい時間をくれた人。
気が付けば・・・、
あなたはいつも、私の側にいてくれました・・・。

優しさは私にとって辛さしか生み出さないけど、
あなたと居る時、私は確かに一人の女でした。
一人の人間でした・・・。
だから私はあなたに賭けてみます。
この土地を守る神様は、人の命を与えなくてもなだめられると解ったから。
私が死んでも街は死ななくて、ただ人々に与えられた力が消えるだけと解ったから。
私が大人になることで赤ん坊だった神様は大人になるけれど、大人になれば力が消える。
そんな法則・・・。
力とは結局、子供のように純粋な想いがもたらすもの。
だけど、力なんか無くったって人は幸せだと解ったから・・・。
そんな想いは、きっと消えることなくこの世界を巡る筈。
私の大好きな、風と同じくずっと・・・。
そう真さんが教えてくれたから・・・。
私は自分の身を捧げます。
この土地に息吹く神様に。
何より大好きな真さんに。
それが私の死を意味することであったとしても後悔はありません。
例え短い間でも、
私は人の優しさに気付き、自分の幸せを追い求めることが出来たから・・・。
だから泣かないで、真さん。
私は充分幸せでした。
だからこれからはその幸せを、みなもさんに与えて下さい。
私と同じくらいに真さんのことを想い、今もきっとあなたを待ち続けているみなもさんと、幸せになって下さい・・・。
「女の子との約束は破っちゃいけませんよ」

それにもしかしたら、何処かで巡り逢うことが出来るかもしれないでしょ?
私が戻ることは決してないけど、心だけは決して消えないでしょ?
強く想うことが希望に繋がるのだと、私達は既に知っているはずです。
そして風はそんな想いを運んでくれるもので、流れる風はきっといつか戻ってくるものだと知っているはずです・・・。
だから強く想って下さい、また逢えるように・・・。
風は、いつだって優しいものだから。
私も想います。
真さんとみなもさん。
そこに生きる優しい人達が、
どうか幸せであるように・・・。
そしてまたいつか、どこかであなたの鼓動を感じることが出来るように・・・。
風よ・・・、
どうかこの想いを運んで―――
最後に愛する真さんへ、
『さようなら・・・』

いつか私が戻ってくる、その日まで・・・。
時は流れて、風は巡って・・・。
私の命もまた巡る。
だから私は、この風が吹く街に囁いた・・・。
『ただいま――――――』
風音市―――。
わたしは空を見上げている・・・。
側では真お父さんと、みなもお母さんが、わたしを見下ろしている。
とても優しくて、とても懐かしい・・・、そんな二人。
まるで、この風みたい・・・。
だからわたしは、風達に挨拶をした。
大好きなおとうさんと、暖かいおかあさんに囲まれながら、
また巡り逢えるように・・・、
『いってらっしゃいっ!』

その時、風は青空へ舞い上がった・・・。
風―――
風は止まらない。
遠くに行ったり、近くへ来たり・・・。
自由に気ままに、世界を流れる。
風は死なない・・・。
人の命は終わってもそれは終わらず、ただ次の世代へと運んでいく。
彼等の記憶と、新たな生命の産声を・・・。
そんな遠くて近しい、誰もが持つ友達。
友達はいつか帰って来るものだから、
優しい風は・・・。
止まることなく、死することなく、
今も私を包み込む。
だから人は風と語らう。
いつでも、いつまでも・・・。
そんな、人の心を打つ調べ。
永久に流れる息遣い。
それは、地球が奏でる生命の歌声・・・。
だから、人が生き続ける限り、
心がそれを感じる限りはいつだって・・・、
風は、私達と共に――――――
Wind − a breath of heart −