コミックマーケット65 〜新たなる戦いの序曲〜

遠征日:2003年12月30日(最終日)
執筆日:2004年 1月 19日(さわたり)
CAST:海斗、片岡とも、さわたり、雀鬼龍、ぷちまりも、Mirimicro、義重(50音順、敬称略)

※この文章は、コミケ65レポートに多少アレンジを加えた、ノンフィクション系テキストです










2003年12月上旬、ある飲み屋 〜口は災いの元〜

「じゃあ、さわたりさん。コミケでコスプレよろしく」

得意満面、ぷちまりも。
酒をあおりながら、彼はさわたりに念押しする。
コミックマーケット65でコスプレをするように、と・・・。

「マジか?マジで僕はそこまでしなければならないのか?勘弁してくれ、僕はまだそこまで飛んでない人間。今までだって、そしてこれからだってそうなんだ・・・。」

「・・・・さわたりさん」

「そうでなければならないはずなんだ・・・。」

無駄だと知りつつ、無意識に抵抗を試みてしまうさわたり。
だけど同時に諦めてもいる。口では否定しても、結局は何かしらしなければならないだろうと・・・。
覚悟を決めてはいる。自分は、少なからず恥を捨てねばならぬ立場に立たされていることを・・・。
何故なら、

「でもこれは・・・約束ですよ?」

そう、これは約束。
ただの口約束だったのかもしれないけれど、当事者達の合意に基いた立派な契約なのだから・・・。

人間社会において契約とは神聖なもの。
約束とは人の信頼を得る為の重要なファクター。
だから俺は、それを軽んじるわけにはいかない。たとえ完遂出来ずとも心にプレッシャーは与えておかねばならないだろう。
それを無下にし始めた時、人は際限無く堕ちていくものだから・・・。
自分では気付かずとも、周囲は必ず気付くもの。その秤の一つとして約束事の履行はあった。
そして、相手に最低限の納得を与えることでしか、約束という呪縛から逃れることは出来ないのである。
だから俺は、

「やるしかないのかもしれない・・・」

これ以上、自らの株を落とさないために。
あの時に交わした約束を・・・。







遡れば10月5日、埼玉県のとある雀荘 〜負ければゴミ〜

さわたりは、サイトの常連であり、現在では「チームさわたり」の特攻隊長を名乗るまでになったぷちまりもと共に、埼玉県所沢市に赴いていた。そこで「ねこねこソフト」の片岡とも、そして「かくかたりき」の雀鬼龍を加えた麻雀大会を行う為なのだが・・・。
その時の規則として、「最下位には罰ゲームが課せられる」という取り決めごとがあった。そして気合充分で臨んだにも関わらず、さわたりの必勝の信念は届かず、見事最下位に転落したのである。
そんないきさつの中、コミケで何かをするのが妥当だろうという線に落ち着き、そして罰ゲームなのだから目立つことをせねばならないという流れが出来上がり・・・。
気付けばさわたりは、



カダンのコスプレをする予定になっていた・・・。

                  朱/(c)ねこねこソフト


「あり得ない・・・」
目を瞑り、頭を左右に大きく振りながら独りごちるさわたり。
その事実をうやむやにしようと必死にもみ消しに掛かるも、周囲は存外覚えているようで、「約束、忘れてませんよね?」と定期的にツッコミを入れて来る始末。
コミケまでの約3ヶ月間、密かに苦悩の日々を送るのであった。

2003年下半期、彼にとって最も強力なプレッシャーとはもしかすると、仕事で数千万の取引を扱う時でもなく、NHKの集金人が居留守を使う自分に向かってしつこくチャイムを鳴らす時でもなく、コスプレをする自分を頭に思い浮かべた時だったのかもしれない・・・。







再び12月 〜実は行くのメンドクサイ・・・〜
しかしながら、さわたりの葛藤はもっと別のところにある。
それはコスプレ云々を論じる以前の問題。コミケに行くかどうかという、根本的な問題だった・・・。

基本的に、さわたりはコミケにそれほど執着していない。
どうしても欲しい同人誌は数えるほどしか無いし、それは大抵同人ショップで手に入るからだ。そしてメーカーブースで発売されるものも、最近では通販で手に入るものも多かった。
だから、モノが目当てで赴くのとはまた違う。もっと別の、雰囲気のようなものを味わう為に、さわたりはコミケに意義を見出していたのかもしれない。
だけど、それも独りでは意味が無い。意味はあっても、独りで労力を費やしてまで行く必要があるのか、と。
最近ではそう考えるようになっていた。
ありていに言えば、彼はただ面倒臭かっただけなのかもしれない。

そういうわけで、夏コミを放棄したように、今回の冬コミに対する意気込みもまた萎み気味。
何時に行くのかと聞かれても「まあ適当に」と、お茶を濁し続けるさわたりだった。







ある飲み屋 〜盛り上がった男達 
しかし、意気消沈するさわたりの周囲で盛り上がる人達。
「さわたりさん、コスプレじゃないにしても、何かやるんでしょ」と遊び道具を見つけたネコのように噛み付いてくるのである。それが奏功してか、さわたり自身も次第に吹っ切れていった・・・。
そして、その勢いにトドメを刺すように、冬コミへの参加表明をする人物が二人。
義重、そして海斗の二人であった。

「コミケ行くんだったら、僕もお供しますよ?何でしたら地獄までっ・・・!」
ガンを飛ばすように斜め45度下からさわたりを見上げ、義重がまず意気込む。

「まあ一人より二人、二人より三人!ライオンは3つに分かれては生きて行けないのだから・・・!」
義重に釣られる形で、海斗が意味不明な言葉と共に挑戦的な笑顔を向ける。

そんな二人のやる気を見ている内に、さわたりもやる気に・・・。
彼は自分の身体に熱が戻るのを実感しつつ、明言するのだった。

「分かりました。それじゃあ・・・行きますかっ!?

純粋と欲望の象徴コミックマーケット、その65回目の大会に・・・。

さわたりの冬コミ出席率、未だ皆勤賞。
大阪から東京に引っ越して来てから2年半経った現在の統計だった。







12月30日、朝8時 〜何事も程々に〜
「朝だ、朝だよ、起きるんだ〜(・∀・)」
遅刻常習犯であるさわたりの携帯に、海斗からの着信メールが届く。
だが、さわたりは既に起床しており準備万端。気合は充分に乗っていたのかもしれない・・・。

それでも全力投球というほどでは無い。
要は、会場に行って雰囲気を楽しめばそれで充分。
俺達が目指すのはコミケの達人では無く、コミケの平均的お客さんなのだから・・・。

さわたりは、最低限行かねばならないブースとして「クリアバージョン」だけをチェックし、家を出発するのだった・・・。







初期設定は10時入場、最大人数5人 〜だけど所詮はファンタジー〜
さわたりを待ち受けていたのは、自称・コミケ初心者の海斗。そして自称・コミケ中級者の義重。
なんちゃってコミケッターのさわたりを加えたこの3人が、今回の「チームさわたり」であった。

ところで、前年の冬コミにて「我々は『チームさわたり』です」の明言を吐いたぷちまりもはというと…。
一応声は掛けたものの、「まあ何でしょう。朝、起きれたら連絡しますよハハハ」という返答が返ってくるのみ。
つまり、はなからやる気なしの態度である…。
「〜〜出来たら○○します」という台詞。それは裏を返せば「面倒臭い」と言っているようなもの。さわたりは同じ堕落者の勘から、それを充分に知っていた。

そんな予測の中、3人が集合した時間を図ったかのように、ぷちまりもからメールが届いた。
「いやぁ、寝過ごしちゃいました。失敬失敬♪」
文字通りの一文、シナリオ通りの一文が・・・。

「わざとらしいなぁ」と海斗。
「確信犯でしょ」と義重。
「彼は今まさに、型に嵌ってしまったのです」とさわたり。
3人には、携帯を片手に勢い良く朝食を貪るぷちまりもの姿が手に取るように見えた・・・。

ぷちまりも、不参加決定・・・



もう一人、Mirimicro。
彼もまた、コミケに行く意思はあったが行けなかった男・・・。
Mirimicro曰く、
「資金が無いんですよ。無くなっちゃったんですよ…。」

「パチスロだな」
「パチスロですね」
「間違い無い、パチスロだ・・・」
見てきたかのように断言する3人の意見は寸分違わず同じ。
真偽の程は別として、

Mirimicro不参加決定・・・


こうして最終メンバーは決定した・・・。


そんないきさつで、上野駅に集合した海斗、さわたり、義重の3人。
だけど彼等も大した気合を入れているわけでは無く・・・。
「まあ昼頃に着きゃいいんですよ、昼頃に着きゃね・・・」
別に急ぐ必要も無いからと、駅構内の飯屋で朝食を優雅に採り始めていた。







上野駅内の飯屋にて 〜はじめの一歩は「遺作」から〜

「何かきじるしさん、バンダナさん、我四季さんあたりがエルフの『リフレインブルー』をマンセーしてるんですけど・・・どうなんです、実際のところは?」
チーム内の最年少・義重が質問を投げかけた。

「フッ・・・」
「フッ・・・」
それに対し、さわたりと海斗は満面の含み笑いを見せ、そして語る。

「いいですか、義重さん。『リフレインブルー』とはエルフの汚点。背負っても尚消えない十字架なのです・・・。
それをマンセーする彼等は・・・。そう、エルフの異端コミュニティーでリフブルを永遠にスパイラルさせているだけの古い世代。悲しきオールドタイプ・・・!」

「そうそう。エルフの基本って言ったらまずは遺作でしょ!ねえさわたりさん?というわけで義重さんは黙って遺作やりなさい!あれほど考えられた作品も、正直そうは無いですからなぁ…!」

「そして、その後は臭作。このエルフ黄金2作品をプレイして、そしてそれが終わった暁には、新世代『雪乃丞』シリーズをプレイするのが正しいエルフロードのあり方なのです。周囲に騙されてはいけませんよ?」

「な、なるほどぉ・・・」

何も知らない義重の洗脳にとりあえず成功したさわたりと海斗。
彼等は共にリフレインブルー未経験者、どころかHPの製品紹介すら見ていない男達・・・。



その後も順調にエロゲー談義を咲かせる3人。
そこでひとまず得た結論は、
・義重が積んである「とらいあんぐるハート3」をプレイすること。
・交換条件としてさわたりが「マリア様が見てる」の小説を読むこと。
・海斗は上野周辺にめっぽう詳しいこと。
等々・・・。

それは、コミケとはまるで関係無い話ではあるけれど、
ともあれ一仕事終えたと判断した3人は、ようやく会場に向けて出発するのであった。







電車の中 〜ほのぼのと、だがコミケ家としてさらに目覚める〜
「曙どうすっかね、曙?なかなか期待しちゃうんですけどっ!」
駅にある広告を見ながら、大晦日に行われる「K-1 ボブ・サップvs曙」予想を促す義重。

「フッ・・・」
「フッ・・・」
それに対し、さわたりと海斗はまたも苦笑するのであった。

「曙ですって?あれはダメ、ダメ。あんなトロイ動きでサップと対戦しようなんて、奴は格闘技を舐めてますよ。対してボブサップは百戦錬磨。あいつもまたTV出演のギャラを貪っている内に堕ちに堕ちた惰弱者だけど、それだけに今回は必死。毛ほども舐めたりしないでしょうね。故に、結果など見るまでも無い・・・。」

「ま、そうですな。それにね、K-1って大晦日でしょ?猪木祭りとかプライドとか色々あるみたいだけど、それが我々に関係あるんですか?我々は何です?エロゲーマーでしょ?よって、K-1なんて結果だけ知ってりゃ十分。現代においての情報収集などは、ニュース一発!何事も合理的に行きましょう!」

「な、なるほどぉ!」

とりとめもない話をしながら談笑するさわたりと海斗、そして義重であった。







ある乗り換え駅 〜俺達だって、きっと見られている…〜
チームさわたりのメンバーの約20m先に、3人の男達が居る。
見たところ普通の青年達だけど・・・。
さわたりには分かった。
「こいつらは、きっとコミケに行く。俺達と同じ駅で降りる」と・・・。

案の定、チームさわたりと同じ駅で降りた3人。
その時、海斗がさわたりの方に向き直り、含み笑いを投げかけた。
そして得心したように言うのであった。

「やっぱりね〜♪(・∀・)」

そんな海斗を見て、さわたりはただ笑顔で一言。
「キミは今っ!きっと僕と同じことを考えているっ♪」
以心伝心、阿吽の呼吸。第三視点にさらに目覚めたこの二人。
ちっぽけだけど、お互いの想いが通じていただけで何となく嬉しかった…。

「え?何、何?一体何事?」
独りキョロキョロと慌てる義重はひとまず置いておくとしても・・・。







新橋駅 〜3日間だけの異変〜
JR新橋駅、ビッグサイト直通の「ゆりかもめ」が発射する場所。
ここに赴く度に、思わずには居られない。

「俺って、コミケとPC EXPO以外でこの駅に来たことあったっけ・・・」


お決まりのように駅前にたむろするコミケ組を眺めながら、何とは無しに苦笑。
それでも、一時的に究極の偏りを見せるそんな新橋駅を、さわたりは気に入っていた。







ゆりかもめ内 〜名参謀・義重〜
「人が一杯乗ってますな。これ全部コミケ?」
素朴な疑問を投げかける素人・海斗が何とも微笑ましい。

「まあ、結構他の駅で降りたりするヤツも居ますけどね。」
後はその目で確かめろとばかりにありきたりな解答を返す義重。

「(あれ、そうなの?俺、そんなヤツ独りも居ないと思ってたんだけど…)」
自分の見解と少し違う義重に只者でない雰囲気を感じ取るさわたり。
だけど、昨年ぷちまりもと赴いたコミケ63の閑散さと打って変わった今回の満車ぶりに、さわたりは満足していたに違いない。何の手違いか、コミケ63時の「ゆりかもめ」内は目も当てられないほど動員数が不振だったのだから…。


「そう、これでいいんだ、これで…。」
誰に言うでも無く、さわたりは呟いていた。


ところでそんな「ゆりかもめ」だが…。


新橋→汐留→竹芝→日の芝→芝浦ふ頭→お台場海浜公園→台場→船の科学館→テレコムセンター→青海→国際展示場正門→有明。


これが正規ルート。そして降車駅は、ほぼ満場一致で「国際展示場正門」。そのはずである。
確かに見るべきスポットは数多くあろう。ビッグサイトなど無関係な輩だって星の数ほど居よう。
だが、それは平常時にのみ適用されるのである。そして今は平常時では無かった。
フジテレビに行きたいヤツは勝手に降りればいい。だが彼等はこの瞬間マイノリティーなのであり、マジョリティーはむしろ我々なのだ。それを忘れてはならない。君達が俺達を眼中に置いていないように、今は俺達が君達を蚊帳の外に置いているのだということを、ゆめゆめ忘れることなかれ…。
力関係とは、いつまでも同じとは限らないのだから。
俺達はコミケ戦士。目的の為には手段を選ばない、だけど明確な目的を掲げた選ばれし者なのだから…。

「だからたとえ慢性的マイノリティーだろうと、今日だけは俺達のペースが『ゆりかもめ』のペース。俺達を無下にすれば経営不振間違い無し。だから丁重に運べよ、車掌さん…。」
さわたりは、独り優越感に浸っていた。

目的駅「国際展示場正門」まで、あと数駅…。


そんな矢先、義重が当たり前のように言った。
「あ、降りる駅は『有明』ですからヨロシク」

「えっ?そうなんだ?」
素直な海斗は真に受ける。

「えっ?なに嘘付いてんですか?」
だが、コミケに自信があるさわたりは、当然反論。コミケと言ったら「国際展示場正門」。マニュアルにだってそう説明してある。素人じゃあるまいし、この人は、と…。

だが義重は譲らず…。
彼の弁。

「『国際展示場正門』はマニュアル通り。しかし、マニュアル故にほぼ全てが集結するのです。そんな人ゴミを掻き分けていたら時間がかかるだけですよ。逆に、だからこそ次の『有明』は無人地帯同然。しかもビッグサイトまでの距離だって別に変わらない。どちらを取るのが賢明か、コミケ初心者の海斗さんでも自明の理でしょう。コミケ中級者を自称するさわたりさんならば尚更のことでは…?」

さわたりは、義重の研究熱心さと見事な知恵に落雷を打たれた気分だった。
そう、マイノリティーはいつも裏をかくべし。いつも隙間を見つけて滑り込まねばならないはずなのだ。それを忘れてただ教科書通りの行動を取るのは、つまるところ周囲の人間と同様に乗せられてしまっているということなのだ。重々気をつけているつもりだったのに…。

さわたりは素直に兜を脱ぐ。
確かに義重の言う通り、「国際展示場正門」で98%の人間が降りてしまい、「有明」まで搭乗した者はごく僅か。
だけど肌で感じた。「有明」で降りた方が圧倒的に有利だということを。俺達は義重という軍師のお陰で勝ち組になれたのだ、と…。

「これからのコミケは有明。出来る男の新マニュアルですな、さわたりさん」
「うむ、一足先の未来派というわけです、海斗さん」
言いたいことは多分違っているだろうけれど、結果的に大変上機嫌な二人であった。

そんな二人がふと数百メートル先を仰ぎ見れば、そこにそびえる「東京ビッグサイト」。
近代的、挑戦的なその建物が相変わらず印象的だった。

そして振り返れば義重。
今にも「グフフ」と言い出しそうなしたり顔がとても印象的だった。







ビッグサイト入場 〜所詮、はす甘い調べ方〜
元々、出発時刻が遅かったので、時計は既に昼過ぎ。
悠長とは言わない。コミケ戦士としてなってないなど思いもしない。
何故なら我々は、コミケで戦いに来たのではない。
コミケをただ楽しみに来ているのだから….。

だからこんな冗談だって軽やかに言える。
義重「じゃあ、どこから入ります?」
さわたり「東館?西館?それとも企業ブース?それともいきなりコスプレとか?」
海斗「まあそれは経験者のお二方にお任せしますけど、どちらにせよ間違い無い事実が一つあります。それは…」


海斗「我々は、既に魔空間に入り込んでいるでしょうっ…♪」


さわたり・義重「アナタのおっしゃるとおりでしょうっ♪(・∀・)」


「ハハハハハ」と笑い合った、あの時。
3人だけで無く、周囲の誰もがきっと同じ気持であったはず。
そんな皆に等しく、はす甘い調べが舞い降りていたはず。
だからコミケに来る人間に悪いヤツなど居ないのだ、きっと。
さわたりはそう信じている。そう信じたかった。
みんなが優しく、みんなに優しいのがコミケなのだと…。

直前の調べが激甘で、ブースの位置を一つとして把握してない我々に対してだって、きっと…。







迷いを断ち切り西館へ 〜何故なら僕らは弱いから〜

別にどこから手をつけても構わない3人。
とりあえず最も無難で、だけど最も主体性が無い証明でもある企業ブースへと向かう。

コミケの本当のメインかもしれない「カベ」。これは別に関係無い。そんなものに並んでいたら、楽しめるものも楽しめないからだ。今更並んだとしても、敗北を見るのは明らかだからだ。何回味わったか知れない苦汁の結果、さわたりは東館に、カベサークルに並ぶことを端から考えていなかった。
そう、本当に出費するのは西館。企業ブースで適当にお好みの企業を選び、西館のマニアックで愛に溢れた同人誌を衝動的に買い漁り、最後に東館を適当にうろついて適度に満足する。そして「コミケに行った」と豪語する。これが、正しいコミケの楽しみ方。戦士でもコレクターでも無い、ただの客としての楽しみ方の一つであるはずなのだから…。

「カベは東に費は西に」
ここ2年半で培ったさわたりの哲学。
その哲学を掲げ、迷い無く西館への階段を駆け上がる。
海斗と義重がそれに続いた。

そうだ、何も怖くない…。
俺達に賛同してくれるコミケ客だって居るじゃないか。
俺達と同じルートを辿る人間が居るじゃないか。

ここに…こんなにも…


力強い行進。
無言の行進。
誰もが同じ目的に向かってその歩を進めているのだ。
それはきっとお互いの励みになっているはずなのだ。

だから、歩けっ…!
前へっ…!そう、前へ…!
希望を信じてっ…!






義重「しかし、相変わらず死刑囚の行進みたいな不気味さですね…」



海斗「夢も希望も無い感じ、なんだ〜♪」





さわたり「そんなこと言っちゃダメなんだ〜っ…!(TДT)」







コスプレは強者の証、勇者の証 〜ボクは弱者で構わない…〜
企業ブースに行く前に、避けて通れない道がある。
さわたりには、通らねばならぬ蛇の道があった。

避けて通れない道は「コスプレ広場」。
蛇の道とは「コミケでコスプレをする」という約束。
案の定、コスプレ会場に目をやるや否や、海斗と義重はさわたりに捲くし立てる。

「さあ、さわたりさん出番です!」
「アナタのカダンを、心行くまで披露する時が参りましたよっ!」
さあさあさあ、と面白半分にさわたりを突付く海斗、そして義重。
邪すぎる笑顔がそこにある。

「いや、だから、あれはっ・・・!」
ヤダヤダヤダ、と真剣に二人の悪魔の手から逃れようとするさわたり。
悲壮すぎる顔がそこにあった。
だが…。

実のところ、このやり取りは出来レース。
海斗と義重は、さわたりにコスプレをさせる気など毛頭無かったのだ。
さわたりは、コスプレの義務から既に逃れていたのだ。
そんな水面下のやり取りは、妥協案は、もう何日も前から決まっていた…。

遡れば数日前。
コミケへ参加の意志を示したさわたりは、コスプレはやはり出来ないと断固言い張っていた。麻雀に負けたくらいでそれは無いだろう、と。僕にもまだ守るべきものがあるんだ、と。
そこで提示された妥協案が、「○○と休日シリーズ」である…。
雀鬼龍の十八番である「日和と休日」や「音夢と休日」に準じた形で、さわたりも何かマニアックな人形とツーショット写真を撮れ。ならばその勇気に免じてコスプレは許してやろう。そんな運びになっていた。
勿論、さわたりは首肯。最初は渋谷で「綺堂さくら抱き枕」を抱えて撮影するくらいがいいだろうと本人自身が豪語していたのだが、それは流石に警察に捕まるだろうということで、却下。コミケ会場で何かしらの人形と戯れればOKという、かなりの恩赦が与えられていたのだ。

「ありがたくて涙が出るなぁ…」
そんなわけで、さわたりはある程度、気が楽。
これで何もしなければもっと気は楽だろうと、人形を持参せずうやむやにしようともしたのだが…。

そこはさすがに義重。
用意周到な彼は、さわたりの為にわざわざ人形を持って来ていたのだ。
まあそんなこともあろうかと、などと不敵な笑みを称えつつ…。

こうして一つの人形が、「Air」の「神尾観鈴人形 1/8スケール」が、
義重からさわたりに授与される。

「逃げようったってそうは行きませんよさわたりさん、ぐふふ…」


「ありがたくって涙が出るなぁ、ちくしょうめ…」


そんなひと時の後、各自はコスプレ会場を楽しむ…。


海斗「おお〜っ!何か、スゴイ!色んな意味でスゴイっす!」
義重&さわたり「これがコスプレ、そしてコスプレイヤー!陽気な空間ですよ♪」
とりあえず、海斗が爆発。大いに喜んでいたと思われる。
それを見て、義重とさわたりも微笑ましくなったと思われる。

海斗「おお!キワドイ、見えそう!あそこまでやっていいんですかねぇ!?」
義重&さわたり「フフフ。まあみんな好きでやってるんですから♪」
雄弁にコメントする二人。

海斗「ハァ〜、そうですか〜。」


海斗「うお!あの魔法使いは何というか!似合ってないというか、やっちゃったというか、幾らなんでも…。ああいうのも有りなんですかねぇ!?」
義重&さわたり「い、いや、あの…。まあみんな好きでやっているのですから…」
コメントに窮する二人。

海斗「そ…そうですか〜…」


そんなバツの悪い沈黙があったとしても、たとえ似合う似合わないがあるとしても…。
彼等のペースは独自のペース。そして、好きという気持ちは誰にも負けない。
そんな彼等にかかったら、俺のような小心者など、とてもとても…。
さわたりは、そんなコスプレイヤー達に心から敬意を表しつつ、彼等の勇姿を拝むのであった…。

さわたり「お!あれ、マブラヴの制服ですよね、マブラヴの!」
義重&海斗「やってもいないくせに…」
さわたり「くそっ…!それでも俺は涼宮茜ちゃんバンザイなんだ!」
義重&海斗「あんまり関係無いし…」
さわたり「くそぉっ…!」







本番、企業ブース 〜兵達が夢の跡〜
企業ブースは西の最果てに追いやられる存在。
それは、彼等がプロだから。コミケはアマの大会だからかもしれない…。

しかしながら企業ブースは、行かない者は居ないほどに盛況な場所だとも言われる。
それも、やはり彼等がプロだから。アマと一線を画すプロの仕事に誰もが惹き付けられるからかもしれない…。

そんな企業ブース。
さわたりは勿論のこと、海斗、義重も別にこれといった指定購入物を定めているわけでは無い。
だけど、好きな企業は各々にある。いや、エロゲーマーである以上、無いはずがないのだ。
3人は早速、企業ブースの場所が列挙された地図を見る。
3日目にのこのこ出向いたところで目玉商品はゲットできる筈も無いと重々承知で、だけど好きなメーカーが出展している場所に、好きなゲームを作っているスタッフが居るであろう場所に行かずして何がファンなのか、と…。
ファンとは、そこに目当てが無くても行くのだ。ただ「在る」というだけで行くのがファンなのだ。
エロゲ歴4年・さわたり、X68000歴10年・海斗、ガンダム歴3ヶ月・義重。誰一人として妥協する者は居ない強者達。彼等は真理を知っていた…。

海斗「それじゃあ、乗り込みますかっ!!」
さわたり&義重「オーーッス!!」
気合充分。
コスプレ会場で一気に覚醒した海斗を筆頭に、今、エロゲに造詣深い3人が行く…。







ねこねこソフト 〜各種ネジ、あります〜
さわたり「何と言ってもまずは『ねこ』。これは外せません。」
海斗「異議なし!」
義重「異議なし!」


そんな、満場一致のねこねこソフトブース。
商品が売り切れているなどということは分かり切ったことである。それは通販で済ませている。そんなものは問題では無い。
問題は、ねこが変わらずバカなのかどうか?その一点に尽きるのである。

それは看板を見れば分かる。いかに彼等が限界に挑戦しているか…。
昨年の冬コミは「ねこねこソフート」、その前は「ねーこねこソフト」。
今回もきっとやってくれるはずだった。

そんな趣で立ち寄れば、


「ねこねこ製作所 ドリル、研磨、シリンダー加工、各種ネジ」



「うーん、素晴らしい」
名前を伸ばすのはネタ切れだと思ったのだろう。
もはやソフトハウスすらも超越した彼等は、更に先を目指していた、
ねこねこは、既にスペースシャトルに思いを馳せていた…。

これがねこねこ。
俺の愛して止まないねこねこソフト。
決して一番なわけじゃない。だけどそのチャレンジ精神だけは昔からずっと一番。バカだけは今も変わらず一番。
きっと彼等は用意したのだろう、ネジを。来訪者に請われれば配ったのだろう、恐れもせずに。
そんなバカが出来るのは、ねこねこソフト以外に居ない。

「ボクは、やはりねこねこソフトが好き。出来るだけ長生きして下さい…」
口には出さなかったけれど、海斗と義重もきっと同じ思いだと、さわたりは信じていた。


そんなさわたり。ふとブースの中を見る。
そこには、うずくまるように座る片岡ともが居た…。

「挨拶した方がいいかなぁ…。でも、一回麻雀したくらいで友達気取りを振りかざすのも何か浅ましいし…。雀鬼龍さんでも居ればそれに乗じて話しかけるんだけど…。」

「ああ、僕ってホンット小心者…」
さわたりは、心底そう思った…。

海斗「ん?何がです、さわたりさん?」
さわたり「いや、あそこにともさんが居るんですけど、さすがに声をかけるのは迷惑かと…」
海斗「ほおっ、どこ?どこですかともさんは!?」
さわたり「えーと、あれです。あの、力尽きて今にも崩れ落ちそうな感じで座ってる人です」
義重「怖いもの知らずなこと言いますね、さわたりさん…。」
海斗「へぇ〜!あれがともさんかぁ!何か、今にも手から気功を発射しそうな人ですね!」
義重「海斗さんはそれ以上に怖いもの知らずだ…」


結局、あいさつはしなかったけれど…。
僕達はいつだって見守っている…。
ねこねこは、きっと誰かに見守られている・・・。







TYPE-MOON 〜ナニシニキタノ?〜
月姫で一世を風靡し、新作「Fate」を以って一気に商業主義でのTOPも狙う野心的、アメリカンドリーム系メーカー「TYPE-MOON」。そのブース。

だけど今回は何も展示していないようだ。

「彼等は何をしたかったんでしょうか…?」
「さあ・・・」

それでも良く見れば、新作「Fate」のデモが、50インチはあるであろうプラズマTVで流れているのである。

「でも、これって別にコミケ会場でなくても見れますよね…?」
「そうですよね…」

分からない。
TYPE-MOONの考えることは、我々凡俗には分からない。
だけど…

「それでも皆、食い入るようにデモを見ている。他には何も無いというのに…」
「そうなんですよね…」

色んな意味で分からないのであった…。







ビジュアルアーツ 〜稀代のペテン術、その全貌〜
コミケ65を語るのならば、このブースに触れないわけには行くまい。
何故なら、我々はこの「ビジュアルアーツ」にしてやられたのだから。
彼等の、その巧妙過ぎるやり口に…。


ビジュアルアーツ。
「Kanon」「Air」という名作を手がけた伝説メーカー「Key」や、「SNOW」で一躍方向転換したことで有名な「スタジオメビウス」などを傘下に収め、その名作、良作達から派生した二次市場で現在を食い繋ぐ者。I'veサウンドを頼みの綱に、次々とCDを出し続け、何とか間を持たせようとする者…。
それが、現在最も色んな意味で危ういと言われるビジュアルアーツの全容である。

彼等のやる気は、去年の冬コミと全く同じ看板を見れば分かる。

この、発売するかすら怪しい「クラナド」のヒロインがプリントされた風船を見れば…。



まあ、それはこの際どうでもいい。
問題なのは、そのラインナップ。及び、罠のかけ方であろう。
まず、海斗がビジュアルアーツのブースを遠巻きに見てみようと、その周辺に歩み寄る。
何とはなしに、義重が、そしてさわたりが続く。
だけどそれは、これから始まる壮大なトラップの第一歩だったのだ。
彼等3人、揃いも揃ってビジュアルアーツの罠に引っ掛かってしまったのだ。
為す術も無く…。

まずは海斗。
ふと歩いている内に、スタッフらしき男に誘導された。
それに続いて、義重とさわたりも誘導らしきものを受けた。
気付けば彼等3人は、何時の間にかビジュアルアーツの順番待ちの列に居た…。

「はいはい、押さないで下さーい」
知らぬフリを決め込む整理員。その声がただ木霊する…。

慌てる海斗、突然の出来事に目を白黒させる義重、どうなってるんだとキョロキョロするだけのさわたり。そこでようやく自分達がビジュアルアーツのブースに誘い込まれたのだと、気付いた時にはもう遅い。次の攻撃は、既に彼等を待ち構えていた…。

「はい、これが注文書です。そして記入用の鉛筆です」

手渡されたそれは、ビジュアアーツブースの商品名を書き連ねた用紙。
その右には3000円、5000円、4000円と、有り得ない金額が記載されている。
そしてご丁寧にも、「ここが購入欄です」と言わんばかりに「○」を付ける空白がでかでかとあった。

ビジュアルアーツは言っている。
「さっさとその紙に鉛筆で記入しな、そして買いな」と。
「今更、逃げることは許さんぜ」と。

そう。我々はしてやられたのだ。
煽動に長けたビジュアルアーツの迂遠な戦略に、その組織力に。

「俺達は、別に買うつもりなんて無いんだ。ただ遠くから見ていたいだけなんだ…」
そうは言うけれど…。

しっかりと列に並び、用紙と鉛筆まで持っているこの状況ではあまりに説得力が無い。
どう見たって「これからビジュアルアーツ買います僕達」である。
彼等は敗北を認めざるを得ないのであった…。

意気消沈の3人。
せめて良質のものをと思ったのか、それともやけになったのか、気付けば3人が3人とも「Kanon、Airのピアノアレンジサントラ」を買っていた。
最高値、5000円…
我々は、これを買ったのか?
いや。それとも買わされた・・・・のか?

それは分からない。
だが、分かることが一つだけあった。
それは…、


「やはりビジュアルアーツは恐ろしい・・・」


ビジュアルアーツに一杯食わされた3人は、心の底から思うのであった…。







リーフ 〜そこじゃない、そこじゃ…〜
「お!リーフがありますよ、リーフが!」


さわたりは駆け出す。
別に今更、思い入れがあるわけじゃないけれど、見るだけなら害は無いだろうと、そう思っていたから…。

だが、それは思い違いだった。
「あれ〜?何か『うたわれ』も『痕』も『雫』も、リーフらしき面影が全然無いや…代わりにボーイズゲーとかの絵がある…おっかしいなぁ」
そう。立ち並んだボーイズラブ系の絵は、免疫の無いさわたりにとって、見るだけで害があるかもしれないのだから…。

そんな不思議事態。
後から駆け寄った海斗と義重の言によって、ようやく解決を得た。

海斗「ちょっと、さわたりさん!それ違う!リーフはリーフでも、別のリーフですよ!」
義重「本物のLeafはあそこ!アナタの右手、20mほど先ですってば!」

義重の指差す先。
いつものLeafはあんなところにあった…。


さわたり「あ〜・・・いやはははは・・・・はは」
海斗&義重「・・・・・・・・・・・・・」


そんな思い違い。
それ以前にリーフ違い。
海斗と義重は猜疑心で一杯。
赤面するさわたりは弁解するのに精一杯…。







Leaf 〜腐っても…〜
「さて、Leafです!雫リニューアルのデモをやってます!」
気を取り直したさわたりは、早速説明を開始する。
ここのところの失敗続きに加え、初心者であるはずの海斗が持ち前のリーダーシップを発揮し始めたことに危機感を感じていたからだ。さらに自分よりもコミケに精通している義重の存在も脅威。このままでは自分の出番が無くなるのは自明の理であったからだ。
だから、
「ヤツラに勝るもの。それはもう、ヤツラがやっていないLeafの旧作品しかない。そこで主導権を握るしかないのだ」
必然的にそうなる。そうなるはずだ…。
さわたりは必死だったのかもしれない…。

そんなさわたり。
雫リニューアルは最終的に絵でこけるであろうと、それでも雫の真のヒロインは誰が何と言おうと月島瑠璃子以外に居ないのだと、Leafの内情を全て知っているファンのような語り口で二人に説明した。
だけど肝心の二人は、「なるほどね、ふぁ〜あ」とあくび顔。
もう少し初心者向けに説明すればよかったと後悔するさわたりは、その時点で何か論点を見誤っていたのかもしれない…。

だが、To Heart2のポップには3人とも興味を示した模様。
義重「ほほー、さすが絵は可愛いですよ。水無月絵の最高潮といったところですな」
海斗「なるほどなるほど…」
さわたり「まあ別に僕は買わないと思いますがね。そんなあからさまなLeafの戦略などには乗らない…」
義重「そうですか?僕は買うなあ、多分。こんな絵を見せ付けられちゃね…」
海斗「なるほどなるほど。私はまあ、1をやってから考えますかね…」

さわたり&義重「え!?アンタまだやってなかったのっ!?(゜Д゜)」
海斗「いや、あの…」

海斗、墓穴一発。
とりあえず、さわたり以外の人間は買う気がありそうな雰囲気ではあった…。



義重「しかしまあ、To Heartの2番煎じになりそうな勢いではありますね」
さわたり「でもとても興味深いキャスティングです。右から神岸あかり、長岡志保…(中略)…雛山理緒に顔が似てるじゃないですか。面影が各キャラに投影されてるじゃないですか。これは何か謎があるはずです」
海斗「いや、だからそれが二番煎じだっつーの」

そんなことは分かっている。分かっているのだ。
だが、To Heartをこよなく愛すさわたりにとって、このキャラ作りは余りにも罪作り。とても無視出来ないでは無いか。それが、To Heartのキャラとまるで関係無くとも、旧ユーザーを購買に走らせるだけの、こすずるい戦略だったとしても…。
だからさわたりは希望を込めてこう言ったのだ。

「これは、To Heartの20年後。あかり達の子供、セカンドジェネレーションの物語なのです!」

義重「え、えぇ〜!マジですか!?」
海斗「その情報のソースは一体どこです、ソースはっ!?」
さわたり「勿論、僕の妄想の中で鋭意進行中でーすっ…♪」

海斗&義重「って、アンタが一番心待ちにしてそうんじゃん!?(゜Д゜)」
さわたり「いや、あの…」

さわたり、墓穴一発。
それは別としても、まさしく時代を超えた「To Heart」の魅力である。
そして、そんな魅力を再度匂わせるLeafは腐ってもLeafだと言えた。

それでもやはり、現在のLeafは腐っていると思って止まないのだが…。







ニトロプラス 〜似非のエセルドレーダ人形その他が陳列〜
海斗「ニトロは熱い!だから我らも熱くなるっ!!」
意味不明の言語を並べる海斗を駆り立てたのは、勢い。
猛り狂う獅子のようにニトロブースに駆け寄った。
財布を握り締めて…。

義重「でも、何か殆ど売れちゃってますよね…」
さわたり「ですね。残っているのはエセルドレーダと呼ぶのもおこがましい、チャチな人形。それに追随するように隣に何気なく置かれてる、商業主義にまみれた『D.C.』キャラのバスタオルだけじゃないですか。アル・アジフファンである海斗さんにとっては得る物の無い空間でしょうな。」
義重「あ、でもアル・アジフのバスタオルがあるみたいですよ?これなら多少は海斗さんの購買意欲も満たされるんじゃないでしょうか?」
さわたり「いや、それは既に海斗さんは買ってます。とっくの昔に通販か何かで手に入れましたよ。」
義重「そうですか…。じゃあ海斗さんは、一体何をしたいんですかね…?」

義重&さわたり「うーん、僕にはあの人が理解出来ないなぁ・・・」

だけどその数分後。
海斗「いやぁ!買ってきましたよ!アル・アジフのバスタオルっ…!」
満面の笑みで、既に持っているものと同じバスタオルを手に抱える海斗がいた。

義重&さわたり「僕にはアンタが理解出来ないなぁっ…!(゜Д゜)」







戯画 〜「12コのきゅるるん」などどうでも…〜
さわたり「バルドフォースはねーのか、つまらん…」
海斗「そしてDuel Saviorの情報も全く無し、と。」
義重「あるのは『カラフルハート 12コのぎゅるるんるん』のみ…。それじゃあ戯画は却下でいいですか、みなさん?」
さわたり&海斗「異議なーし」

チームバルドヘッドが関与しないとなると、瞬く間に掌を返す。
それもまた戯画の、名作と地雷両者を併せ持つメーカーの性なのかもしれない…。







ディスカバリー 〜とらハだけは譲らない〜
「ディスカバリー行ってきます!」
思い出したかのように、一目散に走り去るさわたり。
その先には、毎年「とらいあんぐるハート」関連の商品を販売する、さわたりにとって最も外せないメーカーの一つ「ディスカバリー」のブースがあった。

faceは今回はダメ。
いつもはとらハグッズを強力に推進・販売する彼等のブースだけど、今回は前回の残り物ばかりを売りつけていて、魅力ある商品とは程遠かったのだ。
いくら愛しているからと言っても、去年と同じものを買うほどさわたりは自分を見失ってはいない。海斗のように二個同じものを買うことなんて出来ない。

だからこそのディスカバリー。
相変わらず「とらハ」のOVAとCDとテレカ以外は扱わないけど、「とらハ3OVA」が全盛なこの時だからこそ、輝くブースに成り変わる。

フィアッセのニューアルバム「Starry Crystal」。



そして、そのテレカ。


少ない商品群なれど、それら全てが当たり。
何故なら、とらハだから…。

「フィアッセさん、綺麗だ…キミは綺麗だ…」
さわたりは、ただ惚れ惚れとし、その神々しい肉体に釘付けになるしかなかった。


だけど、良く見ればテレカはとっくの昔に売り切れ。
CDアルバムも、あと4枚で完売という危険状態。

「はーい!残り4枚!残り4枚ですよ〜っ!!」

それを聞いて、居ても立っても居られないさわたり。
「下さい!このフィアッセさんのCD、下さい!」

「とらハ」のCDでは無い。「KOTOKO」のCDでも無い。これは「フィアッセ・クリステラ」という歌手のCDなのだ。それを努々忘れることなく…。
そしていかに慌てている時でも、きっちり「フィアッセさん」と呼ぶべし。
成り切るのは恥ずかしいからと、キャラクタに敬語を使うのはタブーだからと、そう思っているのは薄っぺらい「にわかとらハファン」だけなのだ。
だから私は忘れない。
自分はとらハの世界を愛しているのは勿論だが、何よりそこに居る人達を愛しているということを。
それを証明する為に、いつでも側に居る感覚を忘れないようにしているのだと。

これが真のとらハファン。その最低限のたしなみである。
そして今、「残り4枚」と聞いて逡巡していたお前等は、後できっと後悔するだろう。
そう。今は「見」に回る時では無く、張る時。

「たった一回のコミケは…張って死ね!」

さわたりは100%の確信を持ってそう思っていた…。

案の定。
そのフィアッセさんのCDは、さわたりが購入してからわずか数分後に売り切れていた…。


義重「どうです、さわたりさん。買えましたか?」
さわたり「まあね。普段は山のフドウで林のように静かでも、とらハに関しての僕は侵略すること炎のヒューイですよ。」
義重「へ、へぇ〜。そ、そうなんですか…」
海斗「フフフ…さすが筋金入りのとらハファンだぜ」

その海斗の言葉こそが、さわたりにとって何よりの勲章…。







企業ブースの終わり 〜それはほぼコミケの終わり〜
「ふぅ・・・企業ブースはこんなところですか」
「ですな。じゃあ次は…」
次は…?

ほとんど無い。
企業ブースであらかたの労力を費やした3人だけに、今さら東館および西館で爆裂しようなどとは思わない。
戦いは、9割方終わっていたのだ…。

だから後はクールダウンをしつつ。
知り合いのサークル訪問という、人としてやらねばならないアクションを行いつつ。

「じゃあとりあえず、東館に参りますか・・・!」
「おぃ〜っす」







東館 〜やることは、ただ二つ…!〜
もはやコミケに用はない。
そう言ってもいいほどに楽しんだ。
戦利品は決して多くないけれど、みんな楽しんだはずだ。
特に今回が初めての海斗などは、
「コミケって・・・面白いっ!何で私はこんな面白いイベントに行かなかったんですかねぇ、今までっ!」
と豪語して止まないほどである。
そう。結局のところ、楽しんだ者勝ち。
売った買ったは二の次なのだと、さわたりも再度確認出来た次第である。

それでも、きちんと仁義は通さねばならない。
当初から唯一顔を出す予定だった、わいあい氏の「クリアバージョン」。そしてかくかたりきの雀鬼龍氏の「ぽんこつお兄ちゃん」にだけは、何としても顔を出さねばいけないだろう。
それをしなければ、何と義理に欠けた男かと周囲の笑いものになるのは明白だった。
だから俺は行く。
クリアバージョン、そしてぽんこつお兄ちゃんに・・・!







不発その1 〜何故か、いつも会えないわいあい氏〜
クリアバージョンのブースへ向かう一行。
だが、その席に座る人間は、さわたりの記憶するわいあい氏と違った面持ちをしていた。
少なくとも、さわたりにはそう見えたのだが・・・。

海斗「どうしたんです、さわたりさん。何故、声をかけないんですか?」
さわたり「いや、わいあいさんが居ないんですよ。去年と同じく…。」
義重「留守ですか。運が悪いですね…」

そうかもしれない。
だが、実のところ、問題はもっと別のところにあった。

海斗「じゃあ仕方ない。あの店番の人に言伝だけでもしましょう」
さわたり「いや、まあそれはそうなんですけど、もう一つ問題が…。」
義重「問題とは?」
さわたり「もしかすると、彼がわいあいさんだという可能性も無くはないというか…」
海斗&義重「ハァ!?」

そう、何となく自信が無い。
わいあい氏では無いと1年前の記憶がそう呼びかけているのだが、それでも氏には一度しか会っていないから、その記憶は間違っているかもしれない。今、あそこに座っているのがわいあい氏だという可能性も否定出来ないのだ。

海斗「すると何です?つまりさわたりさんは、わいあい氏の顔を良く覚えてないと、そういうことですか!?」
さわたり「はぁ、ありていに言えばその類の解答を導き出せるかもしれないというか…」
義重「な、なんて失礼な人なんだ!」
さわたり「いや、頭では彼じゃないと分かってるんですが、なにぶん僕は自分の記憶を信じれない弱虫なので・・・どうにも決断が」
海斗「もうー、そんなこと言っても始まらないでしょ。当たって砕けて下さいよ!自分を信じて…!」
さわたり「わ、分かりましたよぉ…何か怖いなぁ、ドキドキ・・・」

最初に画策していた出会いの演出。
それはこうなるはずだった…。
さわたり「わいあいさん、お久しぶり、さわたりです♪去年に増して、チームさわたりは3人になってアナタを慰問に来ました♪」
わいあい「おおっ!これはさわたりさん、お久しぶりです♪わざわざのご足労、痛み入ります♪」
そんな微笑ましくも感動的な再会を、僕は演出しようとしていたはずなんだ。
だけど今は、そんな妄想も見る影も無く…

さわたり「あ、あの〜…。ここは『クリアバージョン』のブースですよ…ね?」
ブースの人「ああ、ハイそうですが」
さわたり「えーと、わたくし、さわたりと申しまして…あの・・・わいあいさんは…」
ブースの人「ああ〜、さわたりさんね!わいあいさんは今、出かけておりまして、申し訳ありません!」
さわたり「あ、そうでしたか…。良かった、やっぱり記憶に間違いは無かった…」
ブースの人「はい?何か言いましたか?」
さわたり「いいええ、何でもっ!そうですか、お留守ですか。残念です、久々にお会い出来ると思ったのですが…」
ブースの人「まあ1時か2時には帰ってきますので、伝えておきますよ。いつもありがとうございます。」
さわたり「あ、どうも、すいませんです。ではヨロシクお伝えくださいますよう…」

そんな、切ないやり取り。
でも、ある意味安心したやり取り。
さわたりは、自分があの好青年のことをしっかりと覚えていたことで少し自信を回復していた。

さわたり「でも、あのブースの人、私のことを知っているようだったけど、ホントに知ってたんだろうか…」
海斗「え?何です…?」
そんな疑問を抱えつつ、最終的にはわいあい氏と一年ぶりの再会を果たせなかったチームさわたりであった。







不発その2 〜雀鬼龍、主目的はむしろ握手会〜
クリアバージョンを不発で終わらせてしまい、焦燥感に駆られる3人。

さわたり「こうなったら、雀鬼龍さんのとこで挽回するしかない!」
海斗&義重「それしかないっ!!」

だが、ブースに申し訳程度に立て掛けてある告知を見て、3人は自らの甘さを呪った。


「ただ今、『後藤邑子握手会に出向いております、全力で…』」


さわたり「はぅっ!しまった、甘かった…!」
海斗「当たり前ですよ!よく考えれば日和狂信者のあの人が行かないわけ無いじゃないですか!」
義重「つーか、雀鬼龍さんが何しにコミケに来たかって言えば、握手会に出る為に来たと言っても過言じゃないんですよ!?やぶへびですよ、ヤ・ブ・ヘ・ビ!」

もはやこうなっては手がつけられない。
雀鬼龍は、きっと今頃、後藤邑子と握手しながら妄想に浸っているだろう。そしてその妄想からしばらく帰って来ないだろう。
それは即ち、彼等のサークルのブースにすら帰って来ないことを意味していた…。

3人「大失敗だ!今日はもう彼と会えない!絶対に…!」

雀鬼龍、後藤さんで大満足。
残りの3人、ゴトーサンで大誤算。

こうして、最後の巡回ルートを未達のままに終了し…。
コミケは最後2つの大失敗によって幕を閉じた…。







ビッグサイトを背に 〜だけど、間違いなく楽しいと言えた〜
こうしてさわたり、海斗、義重のコミケは、その計画のほぼ大半を終了する。
あとは、各々が消化試合に勤しむ…。

義重は、「マリア様が見てる」のブースで6000円の特大人形を買って大層ご満悦。
海斗は、「コミケは面白い!問答無用に面白い!」と連呼しながら、そんな自分に悦に入る。
さわたりは、またいつもの如くとらハ関連ブースを練り歩き、他人が見れば愚にも付かないであろうグッズを買い漁りながら、「とらハは何だって珠玉だから」と嘯いて…。

そして、気付けば午後3時。

さわたり「そろそろ、潮時ですかな」
海斗「そうですな。でも…」
義重「楽しかったですよね、今日はホントに…」




「ああ、楽しかった…」





そう…。
それでいいのだ、それでいい…。
コミケは楽しむための催し物。
ビッグサイトはそれを演出する空間なのだから…。



そこに同人誌があるならば…、
そこにゲームを、アニメを、漫画を好きな人が居るのなら…、
そこにあるのは、ひと時の楽しいお祭り。心からの祭典。

そして、そんな人達ばかりが集まるコミックマーケットだからこそ…、

楽しくないはずは無い。

俺にとっても。
海斗にとっても。
義重にとっても。

この3日間に訪れた、全ての人達にとっても…。


そして、今日来れなかったぷちまりもやMirimicro、会場に赴かなかった、赴けなかった人達全てにとっても、その余韻は、その空気は等しく流れてくれるはず。
彼等がゲームを、アニメを、漫画を愛しているのならば、きっと…。

たとえ東館にカベサークルが存在したとしても、
同じものを愛する人間達の心には、壁など存在しないのだから…。




コミックマーケット65の記憶。
それは良質の記憶。
きっと後世まで語り継がれることだろう。
そして俺はきっちりと語り継ぐだろう。

次なるコミケ戦士を生み出すまで…。
コミケが楽しい平和な空間であることを、伝えるまでは…。

さわたりにはそう心に思いつつ、会場を後にした。



この青空に誓いながら…。





そんなコミックマーケット65。
心から楽しんだ俺達は、きっと勝利者…。



















エピローグ1 〜観鈴ちんと休日〜
海斗「さあ、さわたりさん!観鈴ちんとデートしてもらいましょうか?公衆の面前で!」
義重「今更やめてなんて聞きませんよ?カバンの肥やしにするなど許しませんよ?」

さわたり「フフフ…良いですよ。僕は喜んで観鈴ちんと過ごしましょう。むしろ愛を持って…!」

海斗「おお!?何かさわたりさんが強気だぜ!」
義重「曙のように、オタクとしてさらに目覚めたのでしょうか?」

さわたり「そう。観鈴ちんとの試合は、始まり…。さあ、いつでもどうぞ!」


カシャ!
あるいは食堂で…。

カシャ!
あるいはベンチに腰掛けながら…。

カシャ!
そしてあるいはビッグサイトを背に、観鈴ちんをその手に抱くさわたりは、まるで恋人と戯れる少年のように見えたのかもしれない…。

そう。
俺は今日、この時を境に、


虎になったのかもしれない…。





観鈴ちんは、それほどに可愛くていとおしかったんだ。

俺はもしかして、観鈴ちんを好きになってしまったのかもしれない…。



ありがとう、義重。
こんな素敵な人をプレゼントしてくれて。

ついでに、僕の「休日イベント」に付き合ってくれて…。




それからしばらくの間…。
カメラマン・海斗の素早いカメラワークが、ビッグサイト入り口前で遺憾なく展開されていた…。













エピローグ2 〜打ち上げ、秋葉原にて〜

3人「それではコミケの無事終了を祝って、カンパーイッ!!」


コミケが終わり、さっそくマイノリティーらしく秋葉原に赴き、酒をあおるさわたり、海斗、義重。
その酒は、まさしく格別であった…。

海斗「ではさわたりさん、何か一言」
さわたり「今日、何かが変わった。僕達は、一つ上の階段を駆け上がった!!」
義重「イヤッハー!いいこと言いますねぇ、さわたりさんっ!!」

時間にして4時過ぎ。
彼等の他に客が一人も居ないのをいいことに、手がつけられない3人。
女性店員がカウンターの影からチラリとこちらを盗み見るのを、我々は見逃さなかった。

だけど大丈夫。
俺達は客!
そして何より俺達は、コミケ戦士なのだからっ!(?)


「つーわけで、早いとこDesireやんなさいよ、海斗さん!」
「さわたりさんも、さっさと『マリみて』読んで下さいよ、まったくもう!」
「まあまあ、とりあえず雀鬼龍さんにTELしましょうや、TEL!・・・あ〜、もしもし雀鬼龍さん?何?うるさい?逝って良し?…あ〜、大丈夫大丈夫!勿論私も、日和の胸はでかいと思ってるからさっ!」
「ワケワカランっす…!!」
「そうですなぁ…グワラハハハッ!」
「レンッ!レンッ!!キミは何て綺麗に色っぽくなったんだ!レンッ!!」
「眼鏡っ娘、逝って良し!!」
グハハハ…!
ウヒィー…!
オーヒョヒョヒョヒョ…!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・


ハメを外すのは、酒を飲んだ時だけ。
そして周囲に人が居ない時だけ。
ゆめゆめ忘れること無かれ…。

ゆめゆめ…忘れること無かれ…。










エピローグ3 〜スロット大勝で締め括り〜
海斗「じゃあ、僕はこれから連れと酒飲むんで」
義重「僕もこれから集まりがあるんで」
さわたり「そんじゃあ僕はちょっとパチスロでも打って帰りますわ」

こうして別れた3人。

さわたりは、秋葉原のパチンコ屋「P-Festa」におもむろに入場するや否や、さっそく3階の「スーパーブラックジャック」の最右席に座り込んだ。

それから30分後…。

「お!来た来た、ロングSTーーッ!!」
「いやっほー!リオチャンス7回キター!リオちゃんかわいー!もっとその肢体を見せてくれ!俺だけの為に・・・!」


そして4時間後、閉店前。

「ふいー!勝った勝ったぁ!合計…7万円勝ちっ・・・!」



2003年12月30日がこうして終わる。
今年は良い終わり方が出来そうだ…。
だからこそ、





「来年もこの調子でいいことがありますように・・・」






僕は願ったのだろう。
心から、心の底から・・・僕は…。









皆が幸せであれるように、と・・・。















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