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いつか 鳥は 飛び立つ だろう
5
「……良いですか?」
尋ねたけれど、それは多分意味など無かった。彼が否、と言ったところで、己を止められるかどうか、あまり自信がない。
エドワードは暫く答えを思案していたが、やがて頷いた。
「けど、オレ、……初めてで、だからその、あんまり期待はしないで欲しいんだけど」
ぼそぼそと紡がれた言葉に破顔した。経験不足はお互い様だ。期待するほどの余裕も、自分にはない。
「唇を少し開いてください」
言うと、おずおずと微かにエドワードは唇を開く。その隙間に己の舌を割り込ませ、彼の舌と絡めた。
「ん……っ」
舌を捕らえた瞬間、彼が驚いたように身体ごと逃げようとする。けれどしっかりと抱きしめていたから、それは叶わなかった。そのまましばらく舌を絡ませながら、無我夢中で彼の口腔を探るようにして味わった。
「……っ、ふ……」
やがて唇を離すと、唾液が糸をひいた。エドワードの表情を見ると、どこか虚ろで、その糸の痕が妙に艶めかしい。
ファスナーに手を伸ばすと、エドワードが慌ててアルフォンスの手を止めた。触るな、とでも言いたげだ。
「あの、……自分で脱ぐ、から」
ベルトを外す音が聞こえ、それから少々時間をかけて彼はズボンを脱いだ。どうやら緊張しているらしく、いつも通りの簡単な作業も容易ではないらしい。
「なんか、変な感じだな。いつもなら気にならねぇのに、妙に気恥ずかしい感じがする」
「そうですね。ぼくもです」
いつもなら男同士で同居しているから、あまり遠慮はない。互いの裸も、ある程度は眼にしていた。それなのに、妙に緊張してそわそわとしてしまうのだから不思議なものだ。
そんな会話をしながら、アルフォンスも身に纏っていた衣服を脱いだ。エドワードなどはズボンを脱いでしまえばあとは下着だけだから、覚悟を決めてしまえばあっという間だ。全裸でお互い、睨むようにベッドの上で向かい合った。
互いに緊張しながら、もう一度唇を重ねた。唇や、舌を重ねるだけなのに、どうしてこんな行為が気持ち良いと思うのだろう。最初は恐る恐る絡めていた舌も、気付けばやはり夢中だった。無論、それは彼も同じだ。
思う存分口腔を味わいつつ、互いの性器に触れた。不安そうな表情を浮かべるエドワードの表情がなんとも愛しい。
「……なんで年下のクセに、こんななんだよ」
唇を離し、不満を含んだ口調で問われたが返答のしようがなかった。確かに自分はエドワードより一つ年下だが、成長比率が違う。
「あのさ。確認し忘れたけど、その……、」
彼の言いたいことはなんとなくわかる気がした。おそらく、自分が女役なのか、と言いたいのだろう。彼としてはそれは不満だろうし、複雑な気持ちだろう。けれどここまで来たら引くつもりもなかったから、にっこりと笑って告げる。
「ベッドに俯せになってもらえますか?」
「……」
自分の言葉で、何を望んでいるのか察してくれたらしい。一瞬縋るような眼で見られたが、笑顔だけを返した。すると小さく息を吐き、緩慢な動作で彼が俯せになる。本当に、下手に出ると彼は驚くほど無茶を聞いてくれる。
なだらかな背中を撫でる。彼の身体は、驚くほど小さな傷で溢れていた。その傷一つ一つにキスをすると、そのたびに小さくエドワードは震えた。ひんやりとしていた肌が熱を持ち、色を変える。
「……、ん……っ」
時折、彼の反応が顕著になる場所があり、そこは何度か舌を往復させたり、時には軽く噛む。そのたびに、また彼は震える。その仕草がたまらなくいとけなかった。
腰を僅かに持ち上げさせ、臀部に触れる。彼が身を固くしたのがわかった。
そっと確認するように奥まった部分に指で触れる。入り口になるはずの場所はどうしようもなく狭かった。このままではとても一つになることなどできそうにない。
ぺろ、と己の指を舐めるともう一度同じように入り口に触れた。
「ひゃ……っ」
濡れた感触が気になったのだろう。エドワードが驚いたらしい声を上げた。すみません、と内心で謝罪をしつつ、ゆっくりと指を押し入れた。
「い、……、っ……」
狭すぎるその部分は、指の一本すらなかなか受け入れない。何度か抜き差し、そのたびに唾液で指を濡らしては慣らした。時間がかかる上、エドワードにしてみれば羞恥の極みらしく、何度か止めて欲しいと言われたが、その願いを叶えることなどできるはずがなかった。
「……ん、……っ、ふ、ぁ……っ」
それでも暫くすれば、どうにかその箇所がアルフォンスの指を覚え、慣れてくる。相変わらず狭いが、どこか絡みつくような感覚さえあった。
指を動かす度、ぐちゅ、と濡れた音が響く。それが更に羞恥心を煽ったのだろう。声をあまり上げなくなっていることに気がついた。視線をエドワードの顔に向けてみると、彼は自分の義手を噛んで耐えている。せめて声は出したくない、ということらしい。
「駄目だよ、エドワードさん。そんなことしたら」
慌てて指を引き抜き、エドワードの口から義手を離した。涙目でエドワードは自分を睨み付ける。それはこれ以上ないほど、蠱惑的だった。
「なら、……も、慣らさなくて良いから、……っ」
そう言われても、このままでは確実に彼を傷つけてしまうだろう。それはアルフォンスの本意ではなかった。どんなに慣らしても多少は痛みを伴うだろうが、それでもその痛みは最低限に留めておきたい。
「良いんだ。オレ、痛いのなら我慢できるから、……だから」
羞恥心と痛みなら、痛みの方が良い、と彼は切実な声音で告げる。痛みなら我慢できるが、羞恥心は我慢できないとの事だった。
「早く」
強請るように言われると、どうにも困る。けれど、繰り返し早く、と乞われて結局アルフォンスが折れた。
「……辛かったら、すぐに言ってください」
腰を抱え、ゆっくりと己彼の入り口へと宛がう。エドワードが身体を竦ませたのがわかった。
「力を抜いて」
言ってみたが、それは不可能に違いない。それでも、少しずつではあるが慣らしたおかげか狭いながら身を進めることに成功する。
「ひ、……ぃっ、ん、ァ……、……!」
辛いだろう事は最初からわかっている。彼の分身に触れ、できる限り快楽を感じられるようにと指を動かした。自分でも所有している器官だから、どこに触れ、どうやって擦れば良いのかはすぐにわかる。
「ん、……んン……っ」
少しばかり甘くなった声音が耳に心地良い。存外、快楽に弱い身体なのかもしれなかった。
狭く、熱い内側。絡みつくようなその部分。熱が熱を呼び、彼と自分、どちらがより熱いのかはもうわからない。混じり合い、溶け合う。そんな錯覚を呼んだ。
「あ、……っ、ぁあ、――っ」
気がつくと、彼に気遣うことすら忘れて律動的な動きになっていた。本当に、今の自分には余裕がない。
「あ、……っ、あぁ、――ひぁ……っ」
余裕がないのはエドワードも同じだった。声を殺すことはもはやない。
考える必要など、なにもなかった。身体が本能に従い、律動して彼を追いつめる。自分も追いつめられる。至上の快楽がそこには存在していた。
「――あ、ぁ……、や、ぁ……っ、ん、ン」
身体ごと引き寄せ、奥深く繋がる。びくびくと彼の内部が痙攣した。どうやら、その箇所が感じるらしいとその反応で知る。
「……ここ?」
「――ん、ぁ……っ」
試しに似たような部分を突き、その箇所を確かめる。すぐに該当する部分を見つけ、そこばかりを狙って穿った。
「や、……っ、ァ、……そんな、――ャ、だ……っ、あ、ぁ……っ」
上擦った、涙を拭くんだ声がそれが良いと告げていた。けれど、言葉は否定のそればかり。その声が一層そそると言ったら、彼はどんな顔を見せるだろう。やはり、自分を睨み付けるのだろうか。それとも涙を流すだろうか。
「ん、……っ、ぁ、――も、……っ、――限界、だ、から……っ」
それは自分も同じだった。果てはすぐそこまで来ている。何も考えられないまま、更に律動し、間もなく終わりを迎えた。
「――ひ、……ぁ、あ……っ、ン……っ!」
それは彼の方がほんの少しだけ早く、エドワードが終わりを迎えた瞬間、彼の内側が誘うように締め付ける。そう思ったときには、アルフォンスも彼の奥底で果てていた。筆舌しがたい快楽が、そこにはあった。
「や、……ぁ、ン……っ」
荒くなった息を吐きながら、彼の内部から自身を引くと、甘い声を彼が上げた。
「すみません、中に……その」
女性ではないから妊娠することはないが、それでもあまり良い気はしないだろう。そう思って謝罪の言葉を口にしようとすると、エドワードは微笑んだ。
それはいつも見るような類の笑みではなく、婉然とした、色香の漂うそれだった。
「……良いんだ。すごく、……た、から」
何を言ったのか、はっきりとは聞き取れない。
ただ、言葉を紡ぐその唇も、時々見える舌先もひたすらに淫猥だった。ただ話しているだけなのに、誘惑されているかのような気すらしてくる。
「でも、辛かったですよね?」
「……少しだけな。けど、なんか、満たされてるって感じがしたから、心配するほど辛くないぜ?」
満たされているのは自分の方だ。だが、それをうまく言葉にして彼にきちんと伝える自信はなかった。どんな風に言っても、きっと言い表す事などできない。
「でも、辛いって言うより疲れた気はするな。悪いけど、ちょっとこのまま休ませてもらって良いか?」
「はい、勿論」
二人で眠るには少しばかり狭いベッドだったが、密着していればさほど不自由もない。迷うことなく頷いた。
「何回かすれば、疲れなくなんのかな。どう思う?」
本日何度目かの、返答に困る問いだった。
「疲れるとは思います。けど」
「けど?」
「疲れる価値はあるかな、とも思います」
言うと、エドワードは笑ってそうかもなと相づちを打つ。
「けど、今日はもうパス。また今度な」
さりげなく大胆な台詞を言われて面食らった。呆然としている間に、彼は目を閉じ、瞬く間に寝息が聞こえてくる。彼には敵わない、としみじみと、そして幸福な気分で思わずにはいられなかった。