雪が降ってきた。
SNOW TIME
そのことに気付いたのは、その場所に立ってしばらく立った頃のことだった。寒いな、と多少思いはしたが、それは冬である以上当たり前のことだった。
大抵、彼は時間通りにやってくる。今日もそうに違いない。そして自分は、と言えば、たまたま時間が余り、一時間も早く到着してしまった。
けれど、遅刻するよりは早めに到着した方が良いに決まっている。あまり深く考えることもせず、待ち合わせ場所でぼんやりと立ちつくしていた。
周囲の人間も口々に雪だ、と呟いている。思わず空を見上げると、後から後から雪が降ってくる。そういえば今日は朝から曇りだったことを今更思い出した。
(明日、サッカーできるかな)
つい、そんなことを思う。それは将にとっては当然のことだった。全ての日常はサッカーと直結している。
雪や雨が降ると、どうしてもサッカーには不都合だ。もっとも、先日の韓国との親善試合でも雪は降ったし、必ずできない、というものでもない。ただ、やはりどうせなら青空の下でボールを思い切り蹴る方が個人的には好きだった。
(でも、綺麗だな)
それこそ、韓国でも思ったが、雪の降る光景というのはなんて綺麗なのだろう。見とれずにはいられない。
彼を待つ以外、することもなかったから尚更だ。ひたすらに、雪が降り続ける様を見続けた。
この場所に来たばかりの時はまだ明るかったが、今ではもうすっかり暗くなった。その夜の闇から、雪がしんしんと降り積もる。それはひどく幻想的で、ひたすらに見とれた。
「風祭!」
どれくらい経過した頃だろう。不意に名を呼ばれた。その声音は少しばかり荒く、機嫌を損ねている様子だ。
「郭くん」
だが、それは紛れもなく待ち人のものだったから、将の声は自然に弾んだものになる。空を見上げることをやめ、声の方向へと振り返った。見れば、彼が自分のすぐ側まで走り寄っている。
英士がサッカー以外で走る、ということは実に珍しい。いつも年齢の割に落ち着いている彼らしくもない、と言うべきかもしれない。不思議に思いつつ、将も彼の元へと走った。
互いに走り寄り、目の前に到着すると足を止める。途端、英士が将の頬に触れてきた。
「?」
一体何事だろう、と思いながら彼を見上げると、英士の眉間には皺が寄っていた。
「風祭、何時にここに到着した?」
「え?」
何故そんなことを聞くのだろうか、と思いながら慌てて腕時計を見る。まだ、待ち合わせ時間より五分早い。そんなことを確認しながら口を開いた。
「えっと、今からだいたい四十分か五十分くらい前、かな」
正確には五十五分前だったが、そこまで細かく言う必要もないだろう。そう思い、適当に答える。
「……そう」
頷く英士は、明らかに気分を害している。けれど、それが何故なのか将にはわからない。
そのまま英士は黙り込みつつ、将の身体を払う。どうやらいつの間にか雪が降り積もっていたらしい。じっと空を見上げていたのだから無理もなかった。雪を払い終わっても、英士は何も言わない。むっつりとして黙り込んでいる。
「郭くん?」
「……何でもないよ。行こうか」
「うん」
促され、こくりと頷いた。だが、どうみても英士の機嫌は間違いなく悪い。
(ぼく、なにか悪いことしたかな)
だが思い当たる節などなかった。待ち合わせに遅刻したならともかく、少しばかり早めに来ただけだ。英士は今やってきたのだから、約束の時間を間違えた、というわけでもないだろう。
それに、英士との約束だ。将が忘れるはずもなければ、間違えるはずもなかった。
彼に惹かれた、決定的な理由は自分でも良く分からない。気がつけば彼を見ている自分がいた。英士はサッカーが上手いし、とても無駄のない洗練された動きをする。最初は、だからだろうとずっと思っていた。
けれど、考えてみれば東京選抜のメンバーはそれぞれ、選手としての魅力に溢れている。決して英士だけが群を抜いているわけではなかった。そう気付いても、やはり彼ばかりを何故か見ている自分がいた。
あまりにもずっと見ていたからだろう。ある日、英士は言った。
――――風祭、俺に用でもあるの?
尋ねられ、困った。用などない。ただ、彼を見ていただけだ。彼を、見ていたかっただけだ。だから、正直にそう答えると英士はひどく驚いたような顔をして。それから。
それから、笑った。
そう、と言って。そして笑って。それは彼にしてはとても珍しい表情で。だから、見とれた。そんな表情を見られたことが嬉しく、どこか誇らしい、そんな気分になった。
それから更に英士は将に尋ねた。それは俺が好きって事なのかな、と。
ひたすら、将は驚いた。それは勿論、好きは好きだろう。将には嫌いな人間、というものが存在しなかったし、それがチームメイトなら尚更だ。尊敬もしている。だが、改めて聞かれると困る。他のチームメイトと英士は確かに何かが違っていた。
だから問われて初めて気付いた。チームメイト達のことも、将はとても好きだ。良い仲間だと思っているし、大好きな友人達もそこには含まれている。だから好きで当然だが、その『好き』は英士に対するそれとは違うことに。
――――――――そんな事実に、やっと気付いた。
どうしよう、と思った。当たり前だ。今まで、友達や家族に対する『好き』しか知らなかった。けれど、これは違う。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
頭が混乱して、混乱のままに正直に英士に告げた。
――――どうしよう、郭くん。ぼく、郭くんの事が好きみたいだ。みんなや、家族とは違った意味で好きみたいだ。どうしよう。
今思い返すと、とんでもないことを言ったものだな、と自分でも思う。早い話、どさくさに紛れて告白してしまったのだから。だが、英士はそんな将に向かって尚も微笑んだ。珍しく、顔が少しばかり赤らんで、そんな表情が可愛い、と思ったのを覚えている。英士に対して可愛いと思ったのは、後にも先にもあの瞬間だけだ。
――――嬉しいよ。
そう彼は言った。最初はその意味がわからず、ぽかんとして将は英士を見上げた。もう一度、彼は言った。
――――嬉しいよ、風祭。
そうして、彼は言った。彼も。英士も自分のことが好きだ、と。
チームメイトや、親友や、家族とは違った意味で、好きなのだと。
晴天の霹靂とは、きっとあんな時のことを言うのだろう、と将は思う。驚いたなんてものではなかった。ただ呆然として、実感など全然沸かなかった。
最初は夢なのかもしれない、とすら思ったほどだ。けれど、やがて二人だけで逢うようになり、彼の家を数度尋ねるうちにようやくこれは現実なのだ、と認識できるようになった。
目眩するほど幸福なこの日々は、現実なのだと。
毎日サッカーをして、週に何度か彼に逢って。本当に、なんて幸福な日々なのだろう。きっと、怖いくらい幸せ、というのは今のような状態を言うに違いない。
そうして、今日も英士と待ち合わせをした。理由は彼に勉強を教えて貰うためだ。来週小テストをするわよ、と夕子が言い、サッカーにばかり夢中になっていた将は青くなった。そうして、そのことを聞いた英士が、それなら教えてあげるよ、と言い、その言葉に将は勢いよく頷いた次第だ。
(そういえば、あのときみんな変だったなぁ。どうしたんだろ?)
そもそも、その話をすることになったのは翼に聞かれたからだ。これから英語の勉強をしなくてはならないことに気を重くして、練習後、着替えているときにため息をつき、それを見咎められた。
そこで事情を説明し、すぐ側で着替えていた英士の発言で今日こうして待ち合わせ、無事合流したわけだが、何故か東京選抜メンバーは皆一様にひどく驚愕した表情を見せていた記憶がある。
いつもならつっこみを入れるだろう翼も無言だったし、貴史や誠二なども寡黙だった。竜也などは青い顔をしていたし、多紀は笑っていたがどこか不穏だった。
思い出してみれば随分と皆、妙だった気がする。それは一体どうしてだったのだろう。実に不思議なことだ。
別にチームメイト同士なのだから、勉強を教えたり教わったりすることはそう特異なことでもないはずだ。実際、翼や克朗に教えて貰ったこともあるし、大地や竜也もそれは同じだ。それなのに、一体何故なんだろう。
「行こう、風祭」
英士に言われ、慌てて頷き歩き出す。いつもより早い歩みに、やはり彼は怒っているらしいことを再度認識する。だが、どうしても理由がわからない。
「あの、郭くん。怒ってる……よね?」
恐る恐る尋ねると、ちら、と英士が将を見た。そして小さくため息をつく。
「怒ってるよ、勿論」
声は静かだった。どうやら静かに怒っているらしい。それも、これは明らかに八つ当たりではなかった。つまり、英士は将に対して怒っている、ということになる。
「あの、ごめん!」
謝罪の言葉を口にすると、英士は口の端を微かに笑みの形に曲げた。ただし、目線は冷たいままだ。
「それは、なんの謝罪?」
「え」
無論、英士に腹立たしい思いをさせた、その詫びだ。だが、英士はいかにもつまらなさそうに言った。
「意味も分からず謝罪して貰っても意味ないよ」
「……ごめん」
英士はまた、ため息をついた。それから方向を変えたかと思うと自動販売機に寄り、コインを投入する。
「ココアで良いのかな。それともコーヒー?」
「え。あの」
「それともミルクティーとか緑茶の方が良いのかな。コーンポタージュとかもあるみたいだけど」
確かに怒っているはずの英士が、突然将に何の飲物が良いか、と聞く。意味がわからずぽかんとした。だが、尋ねているのだから答えなければいけない。そう思い、慌てて口を開く。
「こ、ココア」
「そう」
ボタンを押すと、ごとんと音がしてココアが落ちる。それを拾い上げ、英士は将に手渡した。
「はい」
「あ、ありがとう。お金、今払うね」
「いらないよ。俺が勝手に買っただけだから」
そう言われても、はいそうですか、と納得はできない。けれど、とにかくせっかく英士が買ってくれたのだから、と素直に口にすることにした。手の中のココアは随分と熱い。ただ持つのも辛くて、暫く右手と左手で交互に放るようにして適温になるのを待った。
外は相変わらず寒い。雪も相変わらず降り続いていた。明日になったら、積もっているかも知れない。
だが、その寒さのおかげで缶はすぐに手に持てる熱さになった。プルトップに手をかけ、引っ張る。そのままこくりとココアを喉に流し込んだ。
「……あったかい」
じんわりと熱が胃に染みる錯覚。随分と自分の身体は冷えていたらしいことに、そこでようやく気がついた。
「少しは暖まりそう?」
英士の言葉に、こくりと頷く。
「今日、寒いね」
「そうだね。こうやって雪が降るくらい、今日は寒い。なのに風祭はあんな道ばたで一時間も俺を待ってたなんて、愚かにも程があると思うよ」
英士の声には明らかに尖っている。もしかして、と思った。
「……郭くん、まさかそのことを怒って……?」
「怒らないとでも?」
勿論、思わなかった。
とは、言い出せない空気だった。
だが、将にしてみれば戸惑うばかりだ。早く待ち合わせ場所に着いた。だから待っていた。将がしたことは、それだけだ。だが、英士にとっては腹立たしい事態であったらしい。
「風邪ひいたらどうするつもりだったのかな、風祭は」
「割とぼく、頑丈だし」
呆れきった口調で言われ、そう答える。健康にはそれなりの自信があった。
「雪の中、一時間立ちつくして絶対風邪をひかない保証なんてどこにもないよ」
「そりゃ、そうかもしれないけど」
確かに、それはそうかもしれない。
今のところ、別に寒い、と思いはするが悪寒はないし、だから多分風邪はひいていないと思うが、もう少しあそこで立ち続けていたら、英士の言うとおり風邪をひいていたかも知れなかった。その可能性は否定できない。
「東京選抜に、FWは何人もいるけど風祭将という選手は一人しかいない。そのことを理解するべきだと、俺は思うよ」
「……ごめん」
しゅんとして俯き、また謝罪の言葉を口にする。
自分一人が風邪をひけば、チーム全員に迷惑がかかる可能性も十分ある。確かに彼の言うとおり、FWは何人もいるが、それでも自分だけができることもまた、あるはずだった。
「たぶん、早く到着してそのまま待ってたんだろうけど、時間までファーストフードに入るとか、もっと暖かい場所で過ごすことはできたはずだ」
その通りだった。ひたすら、将としては謝るしかない。
「本当に、ごめん。その、思いつかなくて」
今日は英士に会える。そのことが嬉しくて、風邪をひく、という可能性を完全に忘れていた。軽視していた、と言うべきかも知れない。
「……あんまり、心配をかけさせないで欲しいな。心配するのは慣れてないし、慣れたくないんだ」
「うん。本当にごめん」
俯きながら、尚も歩く。気がつけば、あと少しで英士の家に到着する距離だ。
「風祭は知らないんだろうけど」
歩きながら、彼は言った。先ほどより、その声には険が含まれてはいないことに少しだけ安堵する。
「唇、青かったよ。余程寒いんだろうな、って傍目にもわかるくらいね」
「そうなんだ?」
全然知らなかった。ひたすらに、雪に見惚れていたから。
「こっちの身にもなってほしいな。恋人が雪だるまなんてごめんだ」
言われて、思わず自分が雪だるまになった姿を想像して笑った。
「笑い事じゃないよ」
「ごめん。でも、いくらぼくでも雪だるまになるまえに雪は払うと思うよ」
「どうかな。風祭だからね」
良く分からない切り返しをされたが、英士の表情はいつも通りだ。本気の謝罪を繰り返したことで、どうにか英士は気を取り直してくれたらしい。
「……今度から、気をつける」
「是非、そうして欲しいな。これで風祭が風邪ひいたら、東京選抜の連中全員に恨みを買うのは俺だろうしね」
「え、なんで?」
意味が分からない。自分が風邪を引いたとすれば、それは自分の責任なのに、なぜ英士が恨みを買うのだろう。その場合、どう考えても責められるのは将自身のはずだった。
「俺と風祭が今日、逢ってるのはみんな知ってるだろうからね」
それは確かにそうだろう。東京選抜のメンバー全員が着替えている場所で英士が勉強を教えてあげるよ、と言い、将は喜んで頷いた。その後に、いつもの場所で、と待ち合わせ場所を告げたのは自分だったし、その場で日にちと時間も指定した。別に耳を澄まさなくても、それらの会話は十分聞こえたに違いない。
「でも、風邪を引いたら悪いのはぼくだと思うけど」
「……逆恨みって言葉が世の中にはあるし、そうじゃなくてもみんな俺を恨みたいはずなんだ」
「?」
さっぱり、意味が分からない。どうして皆、何を英士に対して逆恨みするというのだろう。それに自分の風邪が関係しているのだろうか。考えてみたが、やはりさっぱりわからない。
「良く、わかんないや。けど、あの時みんなちょっと変だったよね。どうしたのかな」
「風祭と俺が約束したことが衝撃だったんだと思うよ」
「え。でも、チームメイトなんだし、約束したって変じゃないと思うよ?」
一応、自分と英士がつきあっている、ということは皆には内緒だ。やはり男同士だし、世の中には偏見がある。それに、わざわざ広めるほどのことでもない。互いが互いに恋人だ、と認識していればそれでよかったから、誰にも英士とつきあっていることを告げたことはなかったし、おそらくこれからも告げないだろう。だから、誰も知らないはずだ。
そして自分と英士はただ勉強を教わり、教える約束をしただけにすぎない。なのに、一体何が衝撃だった、というのか。
「たぶん、これが風祭と例えば水野とか、椎名ならみんな何とも思わなかったんじゃないかな。または、俺と結人や一馬ならね。けど、俺と風祭なら無理ないと思うよ」
「そうかな?」
そんなに不思議だろうか。確かに、つきあうまでは滅多に話すことはなかったけれど、それでもチームメイトだ。
たまたま一緒に勉強することがあっても、そう不可思議ではないように、やはり将としては思うのだが。
そう言うと、ため息を重ねた。
「風祭にとってはそうなんだろうけど、皆にとってはそうじゃないって事だよ。少なくとも、俺は余程親しくない限り勉強を教えよう、なんて思わないし言わない」
「え」
「風祭だから言った台詞だし、その事実にみんな気付いたってだけだと思うよ。……そろそろ牽制したかったからね」
(牽制? 牽制って、何の?)
英士の台詞は、どうしてもところどころ意味不明だった。チームメイト相手に、一体何を牽制する必要があるというのか。
「……ごめん、やっぱり良く分からない」
「これに関しては分からなくて良いよ。ただ、自分を大事にすることだけ覚えてくれれば」
言われて、とりあえず頷く。ココアのおかげか、いつの間にか冷えていた手にも幾分か体温が戻っていた。きっと唇にも色が戻っていることだろう。
「ココア、ありがとう。すごくあったまった」
笑顔で告げると、英士も柔らかな表情を作った。それは将が好きな表情だ。完全に機嫌は直ったらしい。だが、少しばかり意地悪気味に唇をつり上げて彼は言う。
「それは良かった。けど、家に着いたらもっと暖めるから覚悟しておいて欲しいな」
「覚悟?」
「今日、俺以外誰も家にはいないんだ。……勿論、風祭は泊まっていくよね」
囁くようにそう言われた瞬間、あ、と思った。
「ごめん、郭くん」
「何が?」
一体今日何度目の謝罪だろう。そう自分でも思いながら言うと、英士は不思議そうな表情で尋ねる。
「ぼく、最初から郭くんの家に泊まる気だった。すごい厚かましいよね、ごめん」
英士の家に行くたびに必ず泊まるわけでもないのに、何故かすっかり今日は泊まる気だった。今まで、英士は一言も今日、泊まるかどうか尋ねなかったし、将も聞かなかったというのに。考えてみれば厚かましいというか、ずうずうしというか。英士も呆れるに違いない。そう思った。
けれど、英士は笑った。不思議なほど、幸福そうに。
「それは光栄だな」
「……怒らないんだ?」
将でさえ、自分が厚かましいと思うのに。英士の考えることは、良く分からない。
分からないけれど、まぁ良いか、と思った。分からないなら、これから分かれば良いだけのことだ。たったそれだけの。
自分は愚かで、だからなにも知らない。わからない。けれど、少しずつでも理解できればそれで良い。
「ちなみに、最初から泊まる気でいたってことは、了承って意味で良いってことかな」
耳元で囁かれ、頬を朱に染める。だが、答えなど最初から決まっている。
そう、決まっていた。彼の言う『了承』しか、将は答えを出さない。両親のいない彼の家に泊まる、ということは、いつだって意味することは一つだった。
無論、彼の両親がいないときはただ泊まるだけだ。いつの間にか、そんなルールができていた。
こくりと頷くと、英士が手を差し伸べる。意味が分からないまま将も手を伸ばすと、英士は先ほどよりも更に幾分早く歩き、将の手を引く。どうやら急いているらしい。
先を歩く英士の表情は見えない。けれど、しっかりと握られた掌が思いの外熱かった。
(あったかいな)
空を見上げれば、まだ雪は降り続いている。けれど、寒さはもう欠片も感じなかった。
雪空を見上げながら、将は英士と共に歩く。繋がった指先が熱く、その事実が将の心も暖めていた。
END
